患者さんへ

くも膜下出血の治療費用はいくら? 手術と長い入院の自己負担、ご家族がいま確かめたいこと

2026.10.2 読了の目安 約9分 井上靖章

※一般的な情報です。個別の診断・治療に代わるものではありません。

この記事の目次
  1. まず知っておいてほしいこと — 自己負担には上限があります
  2. くも膜下出血で費用がかかる場面
  3. 入院が長くなるときに知っておきたい、上限の数え方
  4. ご家族が、いま確かめておきたい手続き
  5. 保険が効かない費用
  6. 仕事を休む間の収入と、退院のあとの支え
  7. ご家族からよく聞かれること
  8. おわりに — お金の心配は、制度で小さくできる

家族がくも膜下出血で運ばれ、手術の説明を受けたあと、後遺症や今後の生活への不安とともに、廊下でふと頭をよぎるのがお金のことです。この記事では、くも膜下出血の手術と入院にかかる費用を、自己負担の上限、長い入院で知っておきたい仕組み、ご家族がいま確かめたい手続きに分けて整理します。

まず知っておいてほしいこと — 自己負担には上限があります

くも膜下出血の治療は、緊急の手術に始まり、集中治療、リハビリへと続きます。病院が計算する医療費の総額(10割)が、大きな数字になりやすい病気です。

それでも、窓口で支払う額には上限があります。健康保険の「高額療養費制度」で、1か月(1日から月末まで)の自己負担は、年齢と所得で決まる額までに抑えられます。

ひとつ計算してみます。70歳未満で、会社員なら年収およそ370万〜770万円の方(協会けんぽの区分ウ)の場合、2026年8月からの上限は「85,800円+(医療費の総額−286,000円)×1%」です。仮にある月の医療費の総額が300万円なら、3割負担の90万円ではなく、その月の上限は112,940円になります。

くも膜下出血の手術の説明では、時間がなく、費用の話まではなかなか届きません。それでも、説明のあとに治療の方針を費用で迷われるご家族がいます。この仕組みを知っていれば、その迷いはずいぶん小さくできます。命に関わる判断は、費用とは切り離して、医学的にいちばんよい道を一緒に選びましょう。

くも膜下出血で費用がかかる場面

発症直後:再出血を防ぐ治療

くも膜下出血の多くは、脳動脈瘤の破裂で起こります。まずCTなどで出血を確かめ、破れた動脈瘤がもう一度破れないように治療します。方法は、頭を開けて動脈瘤の根元をクリップで閉じる開頭手術と、カテーテルで中からコイルを詰める血管内治療の2つ。どちらを選ぶかの考え方は、「くも膜下出血、コイルか開頭か」に書きました。

最初の2週間:集中治療

手術が終わっても、治療は終わりではありません。発症から2週間ほどは、脳の血管が縮んで血の流れが悪くなる「脳血管攣縮」に気をつける時期で、集中治療室などで細かく管理します。この時期の検査や点滴、管理の費用も、医療費の総額に加わります。

その後:水頭症の治療とリハビリ

頭の中に髄液がたまる水頭症を合併し、髄液の流れ道をつくるシャントの手術が追加になることがあります。また、急性期の治療が落ち着いたあと、リハビリを専門とする病院へ移って、数か月かけて体の機能を取り戻していく方も少なくありません。

入院が長くなるときに知っておきたい、上限の数え方

「月ごと」に計算されます

高額療養費は、1日から月末までの1か月ごとに計算します。月の半ばに入院すると、同じ入院でも2か月分に分かれ、それぞれの月に上限まで支払うことになります。入院の日付によって、合計の自己負担が変わるのはこのためです。

4か月目からは、上限が下がります

直近12か月のあいだに上限まで支払った月が3回あると、4回目からは上限そのものが下がります(多数回該当)。区分ウの方なら、4回目からは1か月44,400円です。くも膜下出血のように入院が数か月に及ぶ病気では、ここが大きく効いてきます。

5か月の入院を、仮の数字で計算すると

区分ウの方が、急性期の病院に2か月、リハビリの病院に3か月入院したとします。医療費の総額は仮に、1か月目300万円、2か月目150万円、3か月目80万円、4・5か月目は各60万円とします。

  • 1か月目:112,940円
  • 2か月目:97,940円
  • 3か月目:90,940円
  • 4か月目・5か月目:各44,400円(多数回該当)

5か月の合計は390,620円です。医療費の総額は650万円でも、窓口の自己負担は約6%にとどまります(食事代などは別)。数字は仮のものですが、入院が長くなるほど1か月あたりの負担が軽くなる、という形は変わりません。

2026年8月からは「年間上限」も

2026年8月からは、1年間の自己負担の合計にも上限(年間上限)が設けられました。区分ウの方は53万円です。上限を超えた分は、あとから払い戻される仕組みで、手続きは2027年8月以降に始まる予定です。

転院しても、同じ月なら合算できます

急性期の病院からリハビリの病院へ移った月は、支払い先が2か所になります。70歳未満の方は、それぞれの自己負担が21,000円以上なら、同じ月の分を合算して上限を当てはめられます。同じ健康保険に入っているご家族の医療費も、同じ条件で合算の対象です。

70歳以上の方は、区分も金額も別に決まっています。ご自身の区分は、加入している健康保険に確かめてください。

ご家族が、いま確かめておきたい手続き

上限が窓口で自動的に当てはまるかどうかは、手続きで決まります。

  • マイナ保険証で受付をする:マイナンバーカードを保険証として登録していれば、窓口の支払いが最初から上限までになります。
  • それが難しいときは限度額適用認定証:加入している健康保険に申請して、病院の窓口に出します。申請先は、会社員なら協会けんぽの支部か勤務先の健康保険組合、自営業の方などは市区町村の国民健康保険の窓口です。ご本人が手続きできないときは、ご家族が代わりに申請できます(必要な書類は健康保険によって違います)。
  • 間に合わなかったとき:窓口で上限を超えて支払った分は、あとから健康保険に申請すれば払い戻されます。

入院が月をまたぐと、多くの病院では、月ごとに区切って入院費を請求します。退院の日にまとめて払うとは限らないので、請求の時期と支払い方法も、早めに窓口で聞いておくと安心です。

入院したばかりのご家族は、それどころではないと思います。まずは病院の相談窓口(入退院支援や医療ソーシャルワーカー)に「費用のことが心配です」と一言伝えてください。手続きの順番を一緒に考えてもらえます。

保険が効かない費用

上限の計算に入らない費用もあります。

  • 入院中の食事代:一般の所得の方で1食550円(2026年6月から)。1か月の入院なら5万円前後になります。
  • 個室料(差額ベッド代):同意書に署名して個室に入った場合にかかる費用です。救急で運ばれた方や、手術のあとで安静が必要な方など、治療のために病院の判断で個室に入る場合は、原則として請求されません。
  • 診断書などの文書料:傷病手当金や民間の医療保険の請求に使う診断書は、自費になります。何通必要かを先に確かめておくと、無駄がありません。
  • 日用品や付き添いの費用:おむつ、着替え、テレビカード、ご家族の交通費など。長い入院では、ここが積み重なります。

仕事を休む間の収入と、退院のあとの支え

医療費の次に心配になるのが、仕事を休む間の収入です。会社員などで健康保険に入っている方は、傷病手当金の対象になります。仕事を休んだ4日目から、おおむね給料の3分の2(支給開始前12か月の標準報酬月額の平均÷30×2/3が1日分)が、通算1年6か月まで支給されます。勤務先の担当者に早めに伝えてください。自営業などで市区町村の国民健康保険に入っている方には、原則としてこの手当がありません。休む間の収入の見通しは、早めにご家族で話し合っておいてください。

後遺症が残り、退院後に介護が必要になったときは、介護保険が使えます。40〜64歳の方でも、脳血管疾患は介護保険の「特定疾病」に入っているので、要介護認定を受ければサービスを利用できます。後遺症の程度によっては、障害年金や身体障害者手帳の対象になることもあり、時期と条件は病院の相談窓口で確かめるのが近道です。

1年間に支払った医療費が一定の額を超えると、確定申告で医療費控除を受けられます。考え方は脳動脈瘤の治療費用の記事にまとめました。民間の医療保険に入っている方は、手術給付金や入院給付金の請求も忘れずに。

ご家族からよく聞かれること

Q. 開頭手術かカテーテル治療かで、自己負担は大きく変わりますか?

医療費の総額は治療法で変わりますが、窓口の自己負担は上限の式で決まるので、差は小さくなります。区分ウの方なら、総額が100万円違っても、その月の上限の差は1万円ほどです。治療法は、費用ではなく、動脈瘤の形や場所、患者さんの状態で選びます。

Q. 限度額適用認定証の申請が、入院の月に間に合いませんでした。

大丈夫です。窓口でいったん自己負担分(多くの方は3割)を支払っても、上限を超えた分はあとから健康保険に申請すれば戻ってきます。払えるか心配なときは、支払いの時期や方法を病院の窓口に相談してください。

Q. 「個室の同意書」にサインを求められました。

ご本人やご家族が希望して個室に入るなら、費用がかかります。治療のために個室が必要と病院が判断した場合は、原則として請求されません。どちらに当たるのか、署名の前に遠慮なく確かめてください。

Q. 手術の前に、費用の見積もりはもらえますか?

くも膜下出血の手術は一刻を争うので、見積もりを待つ時間はありません。治療が落ち着いてから、病院の医事課でおおよその見通しを聞くことはできます。そのときも、上の上限の式を手元に置いておくと、話が早く進みます。

Q. 同じ月に、家族も別の病院にかかっています。

同じ健康保険に入っているご家族なら、70歳未満の方は、それぞれ21,000円以上の自己負担を同じ月の分で合算できます。

おわりに — お金の心配は、制度で小さくできる

くも膜下出血は、ご本人にもご家族にも、ある日いきなり来ます。手術、集中治療、リハビリと、先の見えない日々のなかで、お金の心配まで一人で抱える必要はありません。自己負担には月ごとと年ごとの上限があり、入院が長くなるほど1か月あたりの負担は軽くなる仕組みです。

いま何が起きているのかについては、手記の「くも膜下出血と言われた家族へ」に書いています。わからないことは、そのまま聞いてください。治療のことは主治医に、お金と手続きのことは病院の相談窓口に。どちらにも、遠慮はいりません。

参考リンク:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」 / 全国健康保険協会「高額療養費の自己負担限度額」 / 全国健康保険協会「傷病手当金」

脳神経外科医 井上靖章

井上靖章(いのうえ やすあき)

脳神経外科医・医学博士。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医。京都大学医学部卒業。米国メイヨークリニック留学、ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院フェローを経て、湖東記念病院 脳神経外科部長。開頭手術と脳血管内治療の両方を自分の手で行う「二刀流」の脳神経外科医。治療方針は、開頭手術・脳血管内治療・経過観察のすべてを並べて示すことを原則としている。

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