脳神経外科の道具箱 第21回

ハイブリッド手術室とは?開頭手術と血管内治療を一室で行う場所を解説

ハイブリッド手術室とは、高性能な血管撮影装置を備えた手術室のことです。ここでは、頭を開ける開頭手術と、血管の中から治す脳血管内治療を、同じ部屋・同じ体位のまま続けて行えます。ハイブリッド手術室とは何か、どんな病気で力を発揮するのか、脳神経外科医の井上靖章が、患者さん・ご家族にわかりやすく解説します。

2026.10.23 読了の目安 約7分 井上靖章

※一般的な情報です。個別の診断・治療に代わるものではありません。

この記事の目次
  1. ハイブリッド手術室とは——手術台とカテーテル装置が同居する部屋
  2. 2つの武器を、同じ部屋で使える強み
  3. どんな病気で力を発揮するのか
  4. 手術の途中で「答え合わせ」ができる
  5. 一部屋で、二つの武器を使う
  6. よくある質問
  7. おわりに

「手術と、カテーテルの治療を、一度に行います」。そう説明されて、頭に「?」が浮かぶ方は少なくありません。ふつう、手術は手術室で、カテーテルの検査や治療は別の部屋で行うものだからです。

その2つを、一つの部屋でつなげてしまう。それを可能にするのが、ハイブリッド手術室です。この記事では、この特別な部屋がどんな場所で、患者さんにとってどんな意味を持つのかを説明していきます。

ハイブリッド手術室とは——手術台とカテーテル装置が同居する部屋

ハイブリッドとは、「異なるものの組み合わせ」を意味する言葉です。つまりハイブリッド手術室とは、ふつうの手術室の設備に、血管の中を映し出すカテーテル用の装置(血管撮影装置)を組み合わせた部屋のこと。

これまで、開頭手術は手術室で、カテーテル治療は「血管撮影室」という別の部屋で行うのがふつうでした。しかしハイブリッド手術室なら、その両方が一室でできます。つまり、メスを使う治療と、血管の中から行う治療を、患者さんを別の部屋へ移さずに、続けて行える。ただし、治療に合わせて、体の向きや器械の配置を整え直すこともあります。

2つの武器を、同じ部屋で使える強み

では、なぜ一室にまとめることが、それほど大きな意味を持つのでしょうか。理由は、大きく3つあります。

  • 患者さんを移動させずにすむ:治療の途中で部屋を移すと、時間も体への負担もかかります。ハイブリッド手術室なら、その手間がありません。
  • 手術の途中で、血管の状態をその場で確かめられる:たとえば脳動脈瘤をクリップで挟んで血流を遮断したあと、すぐに血管撮影で「こぶへの血流が止まり、周囲の血管の流れが保たれているか」を確認できます。
  • 2つの治療を組み合わせられる:開頭手術と血管内治療を、続けて、あるいは同時に行えます。片方だけでは対応が難しい病気でこそ、真価を発揮。

このように、ハイブリッド手術室とは、「開頭手術」と「血管内治療」という2つの武器を、同じ場所で自在に使える環境なのです。

どんな病気で力を発揮するのか

ハイブリッド手術室が真価を見せるのは、1つの方法だけでは治療が難しい、複雑な血管の病気。たとえば、次のような病気です。

  • 脳動静脈奇形(AVM):動脈と静脈が異常な塊でつながった病気。先にカテーテルで血流を減らしてから、開頭して塊を摘出する、といった連携ができます。
  • 複雑な脳動脈瘤:コブの形や場所が難しい場合に、開頭手術と血管内治療を組み合わせて治療します。
  • 硬膜動静脈瘻:脳を包む膜に異常な血管のつながりができる病気。血管内治療と直接手術を併用することがあります。

とくに、破裂した脳動静脈奇形のような一刻を争う場面では、この「続けて治療できる」という利点が、患者さんを守る大きな力になります。

手術の途中で「答え合わせ」ができる

ハイブリッド手術室の、もうひとつの大きな価値。それが、手術のさなかに、その場で血管撮影ができることです。これを術中血管撮影と呼びます。

たとえば、脳動脈瘤をクリップで挟み、こぶへの血流を遮断したとき。備え付けの血管撮影装置を使えば、「こぶへの血流が止まったか」「周りの正常な血管をふさいでいないか」を、クリップをかけたその場で確かめられます。不十分なら、すぐにかけ直せる。つまり、手術中に答え合わせができるのです。

一部屋で、二つの武器を使う

私は、開頭手術と脳血管内治療の、両方を専門としています。だからこそ、この部屋のありがたみが、身にしみてわかります。血管の外から治すか、内から治すか——その2つの引き出しを、同じ部屋で、切れ目なく使い分けられる。これは、二刀流の術者にとって、まさに理想の舞台なのです。

一つの病気を、二つの角度から攻められる。片方が難しいなら、もう片方に切り替える。その自由が、患者さんの安全に直結するんです。

たとえば、複雑な脳動脈瘤。開頭してクリップで挟んで血流を遮断しようとしたとき、少しでも不安が残れば、その場でカテーテルを使い、コイル塞栓術等で補うこともできます。逆に、血管内治療から始めて、難しければ開頭に切り替える。「どちらか一方に賭ける」のではなく、「両方を手元に置いて、最善を選ぶ」。ハイブリッド手術室は、その考え方を形にした場所だといえます。

二つの治療に、受け持ちを分ける

切り替えるだけではありません。二つの治療に受け持ちを分けて臨むこともあります。硬膜動静脈瘻という病気を治療したときが、そうでした。脳を包む硬膜の中で、動脈と静脈が異常につながってしまう病気です。このとき私は、開頭では近づきにくい部分から、カテーテルでしっかり詰めていきました。開頭で処理できる部分は、後に回す。その順番を、作戦として決めていたのです。

結果として、カテーテルだけでは全部を詰めきれませんでした。ただ、残ったのは、開頭なら比較的容易に処理できる部分です。私はそのまま同じ部屋で開頭し、治療を仕上げました。どこから詰めるかで、最後に残る部分が変わる。その先の開頭まで見込んで、一つの作戦を組み立てられるところに、この部屋の意味があります。

ただし、この部屋があれば何でもできる、という話ではありません。2つの治療を正しく使い分けられる術者と、それを支えるチームがいて、はじめてこの設備が生きます。両方が使える部屋でも、両方を使うこと自体を目的にはしません。必要な一方を選び、足りなければもう一方を重ねる。それを決めるのは、設備ではなく、私たちです。

よくある質問

ハイブリッド手術室では、必ず開頭手術とカテーテル治療の両方を行うのですか。

いいえ、必ず両方を行うわけではありません。病気の種類や状態に応じて、どちらか一方だけで終わることもあります。両方を組み合わせられる備えがある、とお考えください。どのような治療になるかは、主治医にご確認ください。

ふつうの手術室で受けるより、体の負担は大きいのですか。

部屋の違いそのもので、負担が大きくなるわけではありません。患者さんを別の部屋へ移す手間が省けるぶん、負担を減らせる場面もあります。実際の負担は、行う手術や検査の内容しだいです。ご自身の場合は、主治医にご相談ください。

どの病院にもハイブリッド手術室はあるのですか。

すべての病院にあるわけではありません。高度な設備であり、導入している施設は限られます。ご自身の治療に必要かどうかは、主治医とよくご相談ください。

おわりに

ハイブリッド手術室とは、開頭手術と脳血管内治療を、同じ部屋で続けて行える手術室です。壁を取り払い、2つの治療の間を自由に行き来できる。片方だけでは難しかった複雑な病気にも、両方を組み合わせる道が開けます。

「自分の病気に、こうした治療が向いているのだろうか」——そんな疑問があれば、どうか一人で抱え込まず、ご相談ください。治療の選択肢を並べて、一緒に考えます。

ハイブリッド手術室でつなぐ個々の治療については、「脳神経外科の道具箱」の関連記事(脳のバイパス手術とは何か・コイル塞栓術とは何か・血栓回収とは何か・脳血管撮影とは何か)でもくわしく解説しています。

参考リンク:日本脳神経血管内治療学会「脳血管内手術について」 / 日本脳神経外科学会

開頭手術と血管内治療を駆使する脳神経外科医 井上靖章

井上靖章(いのうえ やすあき)

脳神経外科医・医学博士。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医。京都大学医学部卒業。米国メイヨークリニック留学、ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院フェローを経て、湖東記念病院 脳神経外科部長。開頭手術と脳血管内治療の両方を自分の手で行う「二刀流」の脳神経外科医。治療方針は、開頭手術・脳血管内治療・経過観察のすべてを並べて示すことを原則としている。

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