脳神経外科の道具箱 第20回

5-ALAとは?悪性脳腫瘍がピンクに光る術中の目印を解説

5-ALAとは、手術前に飲むと悪性の脳腫瘍がピンク色に光る、術中の道具(診断薬)です。青色の光を当て、「どこまで摘出するか」の目印にします。おもに悪性神経膠腫(グリオーマ)の手術で使われ、保険も適用されています。なぜ腫瘍が光るのか。5-ALAとは何かを、脳神経外科医の井上靖章が、患者さん・ご家族にわかりやすく解説します。

2026.10.16 読了の目安 約6分 井上靖章

※一般的な情報です。個別の診断・治療に代わるものではありません。

この記事の目次
  1. 5-ALAとは——飲むと腫瘍が「ピンクに光る」薬
  2. なぜ「光る」と手術に役立つのか
  3. どうやって「光」を見るのか——青色光と顕微鏡
  4. どんな腫瘍で使うのか——おもに悪性神経膠腫
  5. ピンクの光を、どこまで信じるか
  6. よくある質問
  7. おわりに

脳腫瘍の手術で、いちばん難しいことのひとつ。それは、「どこまでが腫瘍で、どこからが正常な脳か」を見分けることです。その見極めを助けてくれる、少し不思議な道具。それが 5-ALA(ファイブ・エー・エル・エー) です。

この記事では、5-ALAとは何かを、「飲むと腫瘍が光る」という、少し魔法のようなしくみから説明していきます。

5-ALAとは——飲むと腫瘍が「ピンクに光る」薬

5-ALAとは、正式には アミノレブリン酸(5-アミノレブリン酸)という物質。手術の数時間前に、水に溶かして飲みます。ここからが、この薬の本領。

まず、飲んだ5-ALAは、全身に行きわたります。しかし、悪性の脳腫瘍のなかでも、悪性神経膠腫の細胞には、光るもと(プロトポルフィリンIXという蛍光物質)がたまりやすいのです。そこに専用の青色の光を当てると、蛍光物質のたまった部分が赤みがかったピンク色に光って見える。つまり、腫瘍と周りの脳の違いが、色の差になって見えてくるのです。ただし、腫瘍なのに光らない部分や、腫瘍ではないのに光る部分もあります。

なぜ「光る」と手術に役立つのか

では、腫瘍が光ると、なぜ手術に役立つのでしょうか。理由は、悪性神経膠腫では、正常な脳との境目がはっきりしないことにあります。

悪性神経膠腫(グリオーマ)は、正常な脳にしみ込むように広がります。そのため、肉眼や顕微鏡で見ても、腫瘍と正常な脳の色がよく似ていて、境目がはっきりしません。取り残せば再発しやすく、取りすぎれば大切な脳の働きを損なう。この難しいさじ加減こそ、脳腫瘍の手術の核心。

そこで5-ALAが力を発揮します。ピンクの光があれば、白い照明だけでは見分けにくい腫瘍の広がりを、色を手がかりに追えるようになります。ただし、光った場所をそのまま切り取ればよい、というわけではありません。周りの脳の働きを確かめながら、光を目印に摘出を進めていきます。

どうやって「光」を見るのか——青色光と顕微鏡

ピンクの光を見るのに欠かせないのが、専用の設備。ふつうの白い照明の下では、腫瘍は光って見えません。

そこで使うのが、青色(紫がかった青)の励起光です。この特定の色の光を当てたときだけ、たまった蛍光物質がピンク色に光ります。そして、多くの場合、この機能は 手術顕微鏡 に組み込み済み。術者は手もとのスイッチで、白い光(通常モード)と青い光(蛍光モード)を切り替えながら、手術を進めます。白い光で全体を確認し、青い光で腫瘍の広がりを確かめる。この二つを行き来するわけです。

どんな腫瘍で使うのか——おもに悪性神経膠腫

5-ALAが使われるのは、おもに悪性神経膠腫(あくせいしんけいこうしゅ)の手術です。これは、グリオーマとも呼ばれる、脳そのものから発生する悪性腫瘍。日本では、この目的での使用に 保険が適用されています。

ただし、すべての脳腫瘍で光るわけではありません。また、腫瘍の種類によって、光りやすいものと、光りにくいものがあります。そのため、5-ALAはあくまで 手術を助ける「道具のひとつ」です。最終的な診断は、摘出した組織を顕微鏡で調べる検査(病理診断)で確定します。5-ALAの光だけで、すべてが決まるわけではありません。

ピンクの光を、どこまで信じるか

はじめて青い光の下で腫瘍がピンクに光るのを見たとき、私は素直に感動しました。これまで「たぶんこのあたり」と経験で探っていた境目が、色となって、はっきり目の前に現れたのです。手術が、少し変わった瞬間でした。

光ってくれると、迷いが減ります。けれど、光っているかどうかだけで、手を進めるわけではないんです。

というのも、5-ALAの光は万能ではありません。強く光る中心もあれば、ぼんやりとしか光らない、きわどい辺縁もあります。その淡い光を、どこまで腫瘍と見なして摘出するか。ここは、色の情報だけでは決められません。光っている場所でも、言葉や手足の動きなど、守るべき働きを担う場所なら、私はそこで手を止めます。光は「参考」にとどめ、最後は、脳の解剖の知識と、十数年の経験を重ねて判断します。摘出のときには、バイポーラーで細かく止血しながら、一手ずつ、慎重に。

私が5-ALAという道具を信頼しているのは、それが「術者の目を、少しだけ賢くしてくれる」からです。道具が経験を置きかえるのではありません。経験のある目に、新しい情報をひとつ足してくれる。そういう関係が、私はいい道具だと思っています。開頭手術でも血管内治療でも、この「道具と経験の足し算」という感覚は、私の医療の芯にあります。

よくある質問

5-ALAを飲むと、副作用はありますか?

飲んだあと一定期間、光に対して皮膚が過敏になるため、術後しばらくは強い光や直射日光を避けるなどの注意が必要です。血圧などへの影響が出ることもあります。使用の可否や注意点は状態によって異なるため、詳しくは主治医にご確認ください。

5-ALAを使えば、腫瘍を全部摘出できるのですか?

5-ALAは腫瘍の範囲を見分ける助けになりますが、それだけで全摘出が保証されるわけではありません。腫瘍の場所や、周囲の大切な脳の働きによって、どこまで摘出できるかは変わります。手術の方針は、主治医とよくご相談ください。

どんな脳腫瘍でも光るのですか?

いいえ。おもに悪性神経膠腫(グリオーマ)で用いられ、腫瘍の種類によって光りやすさが異なります。光りにくい腫瘍もあるため、ほかの検査や画像とあわせて総合的に判断するのが一般的です。

おわりに

5-ALAとは、飲むと悪性の脳腫瘍がピンクに光り、青色光の下で摘出の目印になる、術中の道具(診断薬)。境目のわかりにくい悪性神経膠腫の手術で、腫瘍の広がりを色で示してくれます。とはいえ、その光を活かすのは、あくまで術者の目と経験。色と経験の両方を頼りに、一つひとつの摘出と向き合っています。

関連する道具・治療については、「脳神経外科の道具箱」の記事(蛍光モードを備えた手術顕微鏡とは何か・脳腫瘍を放射線で治療するガンマナイフとは何か・摘出時に止血するバイポーラーとは何か)でも解説しています。

参考リンク:アミノレブリン酸(Wikipedia) / 日本脳神経外科学会

開頭手術と血管内治療を駆使する脳神経外科医 井上靖章

井上靖章(いのうえ やすあき)

脳神経外科医・医学博士。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医。京都大学医学部卒業。米国メイヨークリニック留学、ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院フェローを経て、湖東記念病院 脳神経外科部長。開頭手術と脳血管内治療の両方を自分の手で行う「二刀流」の脳神経外科医。治療方針は、開頭手術・脳血管内治療・経過観察のすべてを並べて示すことを原則としている。

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