クリップで止めたはずの脳動脈瘤に、また残りが見つかった——。脳動脈瘤の再手術は、もう一度頭を開けるのか、それともカテーテルに切り替えるのか。私が、二度目の治療方針をどう決めているのかをお伝えします。
※この記事の患者さんは実在の方ではありません。治療方針がどう決まるかをお伝えするために組み立てた、典型的なケースです。
また、開けるしかないのでしょうか
「クリップで止めた、と聞いていました。それなのに、また残っていると言われて。先生、もう一度、頭を開けるしかないのでしょうか」
一度、開頭手術を乗り越えた方の、この問いには、独特の重さがあります。あのときの入院。剃られた頭。少しずつ回復していった日々。それを、また最初から——。声には出さなくても、その方の体が、もう一度あの道を通ることを怖がっているのが、伝わってきます。
けれど、お伝えしたいことがあります。クリッピングのあとに残りや再発が見つかっても、「もう一度開ける」とは限りません。今日は、一度クリップした脳動脈瘤に残りが見つかったとき、私が再手術をどう考えているのかをお話しします。二度目には、二度目の選び方があります。
クリップの根元に、残っていた
ひとつの典型として、こんな方を挙げてみます。
60代後半の男性です。十数年前、遠方にある地元の病院で、未破裂の脳動脈瘤に対して、開頭手術でクリッピングを受けました。こぶの根元をクリップで挟んで、血流を止める治療です。以来ずっと、お元気に過ごしてこられました。
ところが、今回の定期検査で、クリップの根元に小さな残り(残存ネックと呼びます)が、ふたたび写りました。前回の画像と比べると、ごくわずかですが、大きくなっている。症状は、何もありません。
まず知っておいていただきたいのは、クリッピングは再発がとても少ない、確実性の高い治療だということです。だからこそ、残りや再発はまれ。ただ、ゼロではありません。クリップの根元あたりから、時間をかけて、ふたたび育ってくることがある。だから関東労災病院なども、定期検査を勧めています。つまり、残りが見つかったのは、きちんと診てもらえていたからこそ、とも言えます。
そして、これは前回の手術が悪かった、という話ではありません。確実なクリッピングでも、わずかに残ったネックから育つことはある。「失敗」ではなく、「二度目の分かれ道に来た」ということです。
脳動脈瘤の再手術、四つの選択肢
まず整理すると、残りや再発が見つかったとき、道は大きく四つに分かれます。「もう一度クリップ」だけではありません。
- 経過観察:小さく、変化が緩やかなら、すぐ治療せず画像で見守る
- 再開頭による治療:もう一度頭を開け、追加のクリッピングやトラッピング等で残りを処理する
- 脳血管内治療(コイル塞栓術・ステント併用・フローダイバーター等):足の付け根からカテーテルを通し、残りを詰める、あるいは血流を変える
- 組み合わせ:上の方法を段階的に併用する
つまり、一度クリッピングを受けたからといって、二度目もクリッピングとは限りません。二度目は、「今のいちばん良い手」を、まっさらに選び直します。
再開頭か、血管内か——利点と欠点
脳動脈瘤の再手術に、あらかじめ決まった序列はありません。あるのは、残りの形と場所、その人の状況との相性です。
まず、経過観察。利点は、体に何も加えないことです。一方で、待つあいだ、わずかでも大きくなる可能性が残るのが欠点。ごく小さく安定していれば、動かないことが最善のこともあります。
次に、再開頭による治療。利点は、直接見て、確実に処理できることです。前回かけたクリップをいったん外し、残った部分に新たにかけ直す。そうした再手術まで、私自身が手がけます。ただし、一度開けた場所をもう一度開ける難しさがあります。前回の手術のあとには、瘢痕や癒着が残る。間隔が長いほど、その影響は大きくなりやすい。これは前医の腕の問題というより、二度目という条件そのものが持つ難しさです。
最後に、脳血管内治療。頭を切らずにすむのが、いちばんの利点。手術後に残ったネックを詰める治療は、再開頭の優れた代替になりうると報告されています。こうした考え方は、日本脳神経血管内治療学会の情報も参考になります。ただし、ステントやフローダイバーターを使うと、血液をさらさらにする抗血小板薬が、一定期間必要になります。また、残りの形によっては、血管内だけでは詰めきれないこともあります。
クリップと、枝のあいだ
十数年前の、古い手術の記録。私がまず手元に取り寄せたのは、それでした。前の術者が、どこに、どんな向きでクリップを置いたのか。当時のスケッチと、今の画像を、交互に見比べます。残りの大きさは、その次でいい。先に確かめたいのは、あのクリップが、まわりの枝(脳へ血を送る大切な血管)と、どういう位置で隣り合っているか、のほうでした。
中大脳動脈は、いくつもの枝が分かれていく、交差点のような場所です。しかも、一度手術で開けた場所には、瘢痕や癒着が残っている。前回かけたクリップの周りは、糊で貼りついたように、組織がひとつながりになっていることが多い。そこへ、もう一度触れていく。指先が、枝を傷つけずに残りまで進めるか。あるいはカテーテルなら、その形に、細い管を安全に通せるか。クリップと枝のあいだに、まだ道が残っているかどうか——それが、再開頭と血管内の、どちらがこの人にとってきれいに終わるかを、最初に決めます。
残りが育っているかどうかも、もちろん見ます。けれど、それは「治療するか、しないか」の入口にすぎません。「どの道で治療するか」を左右するのは、クリップと枝の、あの位置関係のほうなのです。
この方の場合、癒着の向こうに、再開頭でも血管内でも、どうにか道はありそうでした。技術の上では、どちらも選べる。だからこそ、決め手は、ここから先、まったく別のところへ移っていきました。
体力と、侵襲を、天秤にかける
どちらも技術の上では選べる。そうなったとき、私が最後まで手放せずに考えるのは、その人の年齢や体力と、治療の侵襲との、釣り合いです。
再開頭は、直接見て、確実に処理できます。けれど、二度目の開頭は、体への負担も、回復にかかる時間も、一度目より重くなりやすい。十数年という歳月のあいだに、体そのものが変わっています。一方、血管内治療は、頭を切らずにすむぶん、負担は軽い。そのかわり、血液をさらさらにする抗血小板薬という別の荷物を、しばらく背負うことになる。確実だが重い道と、軽いが別の負担のある道。この方の年齢に、これからの暮らしに、どちらがなじむのか。何度も、行きつ戻りつしました。
「自分にできるほう」で選ばないために
ここで、自分に言い聞かせていることがあります。私は、開頭手術も、脳血管内治療も、自分の手で行います。だから、「自分にできるほう」ではなく、「この人に合うほう」で選べる。裏を返すと、こういうことです。もし私に開頭の手しかなければ、この残りは、きっと「開頭で治すべき形」に見えてくる。血管内の手しかなければ、「詰められる形」に見えてくる。人の目は、持っている道具のほうへ引き寄せられるものだからです。両方を行う術者として、その引力だけは持ち込むまい。二度目の治療では、なおのことそう思います。施設の得意分野に引きずられず、目の前の血管と、その人で決める。当たり前のようで、いちばん気を抜けないところです。
すぐ決めず、一致点を探す
では、本人が「もう頭は開けたくない」と強く望み、医学の目には再開頭のほうがきれいに治せそうなとき、どうするか。私は、その場で、どちらかに決めません。時間をかけて、一致点を探します。さいわい、こうした残りが育つのは、多くの場合ゆっくりです。だから、急がなくていい。もう一度画像を見て、利点と欠点を並べ直し、ご本人の気持ちと、医学的な最善が、同じ一点で重なるまで、話を続ける。説き伏せて開けるのでも、望みどおり開けずにおくのでもなく、二人で「これなら」と頷ける一手にたどり着く。それが、二度目の治療では、いっそう大事になります。
ひとつ、打ち明けておきます。二度目の治療を勧めるとき、私はいつも、一度目より臆病になります。一度、無事に乗り越えてこられた方の、その平穏を、こちらから、また揺らすことになるからです。だから、動くのは、ご本人の気持ちと体が、ほんとうに支度を終えてから。そう決めています。
開けることだけが、答えではない
脳動脈瘤の再手術は、一度目のやり直しではありません。二度目のあなたは、最初のときより、多くのことを知っています。自分のこぶの癖も、手術という時間の重さも、自分の体の変わりようも。一度クリッピングを乗り越えた分だけ、あなたは、より確かな目で、次の一手を選び直せます。そして、その手は、もう一度頭を開けることとは限りません。
もし「また手術」と言われて、再開頭のほかに道はないのだ、と感じてしまったら、別の医師に意見を聞くセカンドオピニオンという道があります。再開頭が向く人も、血管内が向く人も、しばらく静かに見守るのがいちばんの人もいる。同じ「残り」でも、選ぶ道は、その人ごとに変わります。
二度目だからこそ、急がず、選び直していい。
よくある質問
クリッピングした脳動脈瘤が再発しました。前の手術は失敗だったのですか?
多くの場合、失敗ではありません。クリッピングは再発の少ない、確実性の高い治療ですが、わずかに残ったネックから時間をかけて育つことが、まれにあります。定期検査で見つかったのは、きちんと診てもらえている証拠でもあります。再治療の方針は主治医にご相談ください。
再発したら、また頭を開けるのですか?
必ずしも、そうではありません。残りの形や場所によっては、カテーテルを使う脳血管内治療(コイル塞栓術・ステント併用・フローダイバーター等)に切り替えられることがあります。再開頭が向く場合もあり、残りの状態とご本人の状況に合わせて選びます。迷うときは、セカンドオピニオンという道もあります。
一度入れたクリップは、外れたり、一生もたなかったりしますか?
通常、クリップは存命中の耐久性をもち、運動などで外れることはなく、永久的に残ります。ただし、まれにクリップの根元あたりから再び育つことがあるため、定期的な検査が勧められます。ご自身の場合は主治医にご確認ください。
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