巨大脳動脈瘤の治療で、流れをどこで断ち迂回路をどこへ引くかを象徴する、大きな淵の脇に静かに分かれる水路

血栓化した巨大脳動脈瘤の治療| 分岐点

とても大きな脳動脈瘤で、中に血のかたまりがあると言われた——。血栓化した巨大脳動脈瘤の治療は、フローダイバーターか、バイパスを併用した開頭手術か。私が、何を見て治療方針を決めているかをお伝えします。

※この記事の患者さんは実在の方ではありません。治療方針がどう決まるかをお伝えするために組み立てた、典型的なケースです。

大きすぎて、詰められない

「とても大きな動脈瘤です。しかも、中に血のかたまりが溜まっている」。診察室でそう聞かされて、言葉を失う方がいます。大きいと言われただけでも怖いのに、そのうえ「ふつうの治療は難しいかもしれません」と続くと、もう治す道はないのか、と感じてしまう。

けれど、そうではありません。血栓化した巨大脳動脈瘤にも、治療の道はあります。ただ、小さなこぶとは、考え方の入り口がまるで違う。今日は、この大きなこぶを前に、私が何を見て、どう治療方針を決めているのかをお話しします。ここは、術者の考え方がいちばん問われる領域のひとつです。

中に血のかたまりを抱えた、大きなこぶ

典型的なひとりの方から、話を始めます。

60代の男性です。ものが二重に見える、という訴えで受診されました。調べると、内頚動脈の付け根あたりに、25mmほどの大きな脳動脈瘤があった。しかも、こぶの中には、古い血のかたまり(血栓)が層になって溜まっていました。こぶがそばの神経を押していて、それが、ものの見えかたに出ていたのです。

最初に、これだけはお伝えしておきます。京都大学病院も述べているように、25mmを超える巨大なこぶは、破れる確率が小さなこぶよりずっと高い。だから、大きいほど「治療を考えたい」対象になります。ところが、大きいほど治療そのものは難しくなる。この二つが同時に起きるのが、巨大脳動脈瘤の厄介なところです。

なぜ難しいのか。理由ははっきりしています。こぶが大きくなると、そのふもとに、脳へ血を送る正常な血管が巻き込まれてしまう。小さなこぶなら、根元をクリップで挟んだり、中をコイルで詰めたりできます。けれど、正常な血管まで巻き込んだ巨大なこぶに同じことをしても、うまくいきません。しかも中に血栓を抱えていると、詰めても、また流れが戻ってくることがある。

巨大脳動脈瘤の治療、四つの道

先に整理します。血栓化した巨大脳動脈瘤の治療は、大きく四つに分かれます。どれが正しいかは、こぶの場所と、巻き込んでいる血管の事情で変わります。

  • 脳血管内治療(フローダイバーターやステント併用のコイル塞栓術など):母血管に網目のステントを置いて血流をなだめたり、ステントで支えつつコイルを詰めたりして、時間をかけて固めていく。頭を開けずにすむ
  • 母血管閉塞+バイパス:こぶのある血管そのものを閉じ、その先の脳へは、迂回路(バイパス)を頭を開けて新しく作り、血を届ける(これも開頭手術の一つ)。血流の出口をなくして、こぶを止める
  • 開頭手術(クリッピング等):頭を開けて根元を挟む。ただし巨大では直接挟めないことも多い
  • 経過観察:全身の状態などから、すぐには治療せず画像で見ていくこともある

大切なのは、巨大だからといって、一晩で決める話ではない、ということです。破れるリスクは高くても、多くは、時間をかけて最も安全な道を選びます。

巨大脳動脈瘤の治療、それぞれの利点と欠点

四つの道に、優劣の順位はありません。血栓化した巨大脳動脈瘤の治療では、「体への負担の軽さ」と「こぶをきちんと止めきる力」の、どこで折り合いをつけるかで決まります。

まず、フローダイバーターなどの脳血管内治療。利点は、頭を開けずにすむことです。網目で流れをなだめ、こぶを内側から固めていく。ただし、血栓を抱えた巨大なこぶでは、固まりきるまでに時間がかかり、その間に、また流れが戻ってくることがあります。網目越しに血流が残るぶん、大きなこぶでは押す力(圧迫)がなかなか引かないこともある。手軽に見えて、巨大瘤では一筋縄でいかないのです。同じ血管内治療でも、ステントで支えながらコイルを詰める(ステント併用のコイル塞栓術)道を検討することもあります。

開けない道から、開ける道へ

次に、母血管閉塞とバイパスの組み合わせ。これは、こぶのある血管を根元から閉じてしまう治療です。血流の出口そのものをなくすので、こぶは確実に止まる。ただし、その血管が担っていた脳への血が途絶えては困る。だから先に、迂回路となるバイパスを、頭を開けて作ってから閉じます。つまり、これも開頭手術の一つです。確実だけれど、体への負担は小さくありません。

そして、クリッピングなどの開頭手術。根元を直接挟めれば確実ですが、巨大で血管を巻き込んでいると、そのままでは挟めないことが多い。経過観察は、全身の状態しだいで「今は動かない」を選ぶ道です。こうした治療の一般的な説明は、日本脳神経外科学会の情報も参考になります。

流れを、どこで断つか

このこぶを読むとき、25mmという直径より先に、探しにいく場所があります。いつも同じです。このこぶに、いったいどこから血が流れ込んでいるのか——その一本の入口。大きさや、中の血栓の量より先に、流れの入口と、その水がどこから来てどこへ向かうのかを、たどっていきます。

血栓化した巨大脳動脈瘤を、私はいつも、水の流れとして眺めます。こぶは、川の途中にできた、よどんだ大きな淵のようなものです。網目のステントで表面をなだめるだけでは、奥のよどみは残り、いつか、また流れが差し込んでくる。本当にこぶを鎮めたいなら、そこへ流れ込む水の道を、どこかで断たなければならないことがある。詰める、覆う、だけでは終わらない。流れの上流を締めて、その先の脳へは別の水路を引く。母血管閉塞とバイパスという発想は、そこから出てきます。

ただ、流れを断つと決める前に、確かめておくことがあります。この血管を閉じても、その先の脳が、ほかの流れで足りるのかどうか。ここで私は、自分の見立てを、いったん疑います。

自分の目を、いったん止めて確かめる

画像を見て「大丈夫だろう」と感じても、それだけでは動きません。バルーン閉塞試験という検査で、実際にその血管を風船で一時的に止めてみて、その先の脳が耐えられるかを、体に聞きます。頭の中の見立てより、実際に止めてみた事実のほうを信じる。当たり前のようで、経験を積むほど、人は自分の目を過信しがちになる。だから私は、あえて一度立ち止まり、確かめる手順を挟みます。

もし、閉じては危ないと分かれば、迂回路のバイパスを厚く用意する。あるいは、こぶのふもとから細い枝(穿通枝)が出ていれば、流れを完全には断てないので、向きだけを変える別の設計に切り替える。流れを断つ場所は、こぶの大きさではなく、その先の脳が決めるのです。

攻めきらない、という判断

それでも私は、この方については、「無理に攻めない」道から考え始めました。

血栓化した巨大脳動脈瘤は、術者にとって、手ごたえのある相手です。だからこそ、いちばん警戒するのは、自分の中の「治しきりたい」という気持ちのほうでした。母血管閉塞とバイパスは、うまくいけばこぶを確実に止められる。けれど、体への負担は重い。この方の全身の状態、これからの暮らし、ものが二重に見えるという症状が、どれだけ日々を不便にしているのか。治せるかどうかと、この人にとって治すべきかどうかは、別の問いです。私の考えは、その二つの問いのあいだで、何度も揺れました。

開頭手術も、脳血管内治療も、自分の手で行う立場です。だから、「自分にできる治療」から発想を始めずに、フローダイバーターも、バイパスも、閉塞も、経過観察も、同じ重さで並べられる。両方を行う術者だからこそ、いちばん侵襲の軽い順に考えて、必要なところまでしか踏み込まない。攻めることより、どこで攻めないかを決めるほうが、この病気では難しいのです。

二重に見える、その一日から逆算する

最後まで私の頭にあったのは、数字でも術式でもなく、この方の一日でした。ものが二重に見えると、新聞の文字が重なり、階段の一段目が二つに割れて見える。車の運転は控えることになる。その不便を、この治療でどれだけ軽くできるのか。逆に、大きな手術で体力を削れば、たとえこぶが止まっても、暮らしが縮んでしまうかもしれない。こぶを止めることが目的ではなく、この人の一日を守ることが目的だ。そう自分に言い聞かせて、私は、いちばん軽い一手から順に、この方に合う地点を探しました。難しい手術ができると示すためではありません。この人の暮らしに、ちょうどよい治療を当てるために。

大きさに、名前負けしないで

「巨大」「血栓化」——言葉だけ聞くと、もう打つ手はないように響くかもしれません。けれど、大きなこぶには、大きなこぶなりの道が、ちゃんとあります。網目でなだめる道、流れを断って迂回路を引く道、そして、あえて今は動かない道。どれを選ぶかは、こぶの大きさでは決まりません。そのこぶがどんな血管を巻き込み、あなたの体と暮らしがどんな治療に耐えられるか。そこから、静かに決まっていきます。

もし「治療は難しい」と言われて、そこで道が閉じたように感じたら、別の医師の意見を聞く、セカンドオピニオンという道が残っています。ある病院で難しいこぶが、別の設計でなら治療の道が開けることもある。逆に、無理をしないほうがよいと分かることもある。どちらも、あなたの一日を守るための答えです。大きさという数字に、名前負けしないでください。あなたのこぶの答えを引くのは、あなたが明日どんな一日を過ごしたいか、です。いちばん大きな脳動脈瘤の直径では、ありません。

よくある質問

とても大きな脳動脈瘤は、もう治療できないのですか?

そうとは限りません。巨大なこぶは治療が難しくなりますが、母血管を閉じて迂回路(バイパス)を作る方法や、フローダイバーターなど、大きなこぶに向けた治療の道があります。こぶの場所や巻き込んでいる血管によって選び方が変わるため、ご自身の場合は主治医にご確認ください。

フローダイバーターを入れれば、大きなこぶも安全になりますか?

すぐに、ではありません。網目のステントでこぶを固めるには時間がかかり、血栓を抱えた巨大なこぶでは、また流れが戻ることや、押す力(圧迫症状)が引きにくいこともあります。こぶの状態しだいで、母血管閉塞など別の方法が向くこともあります。迷うときはセカンドオピニオンという道もあります。

バイパスまで必要と言われました。そこまで大きな手術が要るのですか?

こぶのある血管を閉じないとこぶが止まらないとき、その先の脳へ血を届けるために、迂回路のバイパスが必要になることがあります。閉じても大丈夫かは、バルーン閉塞試験などで事前に確かめます。負担のある治療なので、全身の状態や暮らしと合わせて、無理のない範囲を一緒に考えます。

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開頭手術と血管内治療の両方を駆使する脳神経外科医 井上靖章

井上靖章(いのうえ やすあき)

脳神経外科医・医学博士。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医。京都大学医学部卒業。米国メイヨークリニックでの研究研修、ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院フェローを経て、湖東記念病院 脳神経外科部長。開頭手術と脳血管内治療の両方を自分の手で行う「二刀流」の脳神経外科医。治療方針は、開頭手術・脳血管内治療・経過観察のすべてを並べて示すことを原則としている。

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