脳動脈瘤のセカンドオピニオンで意見が分かれる状況を象徴する、夜明けに静かに二手へ分かれる二本の道

脳動脈瘤で意見が分かれた時の考え方| 分岐点

脳動脈瘤のセカンドオピニオンで、A病院は手術、B病院は経過観察——言うことが違って、どちらを信じればいいのか分からなくなる。私が、意見が分かれたときの考え方を、判断の補助線としてお伝えします。

※この記事の患者さんは実在の方ではありません。治療方針がどう決まるかをお伝えするために組み立てた、典型的なケースです。

同じ画像を見て、逆のことを言われた

ふたりの医師が、同じMRIを見ている。それなのに、一方は「手術しましょう」と言い、もう一方は「様子を見ましょう」と言う。言われた本人からすれば、これほど心細い話はありません。どちらかが間違っているのか。自分は、だまされているのか。夜、その二枚の紙を並べて、ため息をつく。

脳動脈瘤のセカンドオピニオンでは、こういう「意見の食い違い」が、しばしば起こります。今日は、その理由を分解してみます。医師の意見が分かれたとき、問うべきは「どちらを信じるか」より、あなた自身が判断の軸をどう持つか。そのための補助線を、いくつか引いてみたいと思います。いわば、このシリーズの舞台裏の話です。

手術と言われ、経過観察と言われ

よくある典型例で、お話を進めます。

60代の男性です。脳ドックで、未破裂の脳動脈瘤——脳の血管にできた、小さなこぶが見つかりました。ひとつめの病院では「これは手術を考えた方がいい」。ふたつめの病院では「この大きさなら、経過観察でいいでしょう」。まったく逆のことを言われて、この方は途方に暮れ、私のところへセカンドオピニオンに来られました。

「先生、どちらが正しいんですか」。開口一番、そう聞かれました。脳動脈瘤のセカンドオピニオンで、いちばん多い問いです。無理もありません。けれど、私が最初にお伝えしたのは、どちらが正しいかではありませんでした。「おそらく、どちらの先生も、間違ってはいません」。この方が、いちばん聞きたくなかった言葉かもしれません。

意見が分かれる、三つの理由

なぜ、同じこぶを見て、意見が分かれるのか。理由は、大きく三つに整理できます。まずは、この地図を持つことです。

  • 数字の解釈:破裂する確率も、治療のリスクも、「幅」でしか言えない。その幅のどこを重く見るかで、結論が変わる
  • 治療の得手:開頭手術を多く手がける医師と、カテーテルを多く手がける医師とでは、見え方の重心が少し違うことがある
  • 病院の体制:その施設で、何が安全に行えるか。設備やチームの態勢によって、勧めやすい選択は変わる

大事なのは、この三つは、どれも「いいかげん」ではないということです。むしろ、それぞれの医師が、自分の経験と良心に照らして、誠実に答えている。だから、割れる。意見が割れるのは、多くの場合、その脳動脈瘤が「グレーゾーン」にあるという合図なのです。

グレーゾーンとは、どういうことか

「グレーゾーン」を、もう少し具体的にしておきます。

未破裂脳動脈瘤の破裂率は、日本の大規模研究(UCAS Japan)で、平均すると年におよそ1%とされています。ただし、これは平均です。その数字を上にも下にも動かすのが、こぶの大きさ・場所・形。一般には5〜7mm以上で治療を検討することが多い一方、小さくても、前交通動脈や後交通動脈にあるもの、形がいびつなものは、破れやすいとされます。くわしくは国立循環器病研究センターの解説にもあります。

問題は、多くのこぶが、その「白(明らかに治療)」と「黒(明らかに経過観察)」のあいだの、灰色に入ることです。灰色の中では、同じデータを見ても、「この人なら治療に傾く」「この人なら待つに傾く」と、判断が割れる。医学が未熟だから、ではありません。まだ誰にも、一つの正解を言い切れない領域がある。それが、灰色の正体です。

私は、自分の意見をどう伝えるか

では、そのグレーゾーンで、私自身はどうしているのか。

私も、意見は言います。「私なら、こう考えます」と。ただ、それを「正解」として押しつけはしません。三枚目のカードとして、そっと差し出すだけです。一枚目は手術を勧めた先生の見方。二枚目は経過観察を勧めた先生の見方。そこに、私の見方を三枚目として置く。ねらいは、どれか一枚を選ばせることではありません。三枚を見比べる目を、ご本人に持ってもらうことです。

このとき私が意識しているのは、自分の得意な治療のほうへ、知らず舵を切ってしまわないことです。私は開頭手術も、カテーテルによる脳血管内治療も、どちらも自分の手で行います。片方しかできなければ、人はどうしても、できるほうの色眼鏡で血管を見てしまう。両方できるということは、どちらにも肩入れせずに見られる、ということでもあります。腕自慢の話ではありません。公平でいるための、私なりの足場です。

割れる理由を、開いて見せる

だから私は、結論より先に、「なぜ割れているのか」を開いて見せます。ひとつめの先生は、この方の年齢と、こぶの場所を重く見て、手術に傾いた。ふたつめの先生は、この大きさと形の穏やかさを重く見て、待つに傾いた。どちらも、根拠がある。そう分解して初めて、この方は「だまされていたわけではない」と、ふっと表情をやわらげられました。食い違いの正体が、悪意でも間違いでもなく、灰色の広さそのものだと分かったからです。答えを一つに削るより、なぜ二つに見えるのかを見せるほうが、この方の助けになると、私は考えています。

選ぶのは、いつもご本人

最後まで手放さないことが、ひとつだけあります。判断の軸を持つのは、医師ではなく、ご本人だということです。

灰色の中では、医学だけでは答えが出ません。そこから先を決めるのは、その人が何を大切にして生きているか、です。こぶを抱えたまま毎日を不安なく過ごせる人もいれば、頭の隅にあるだけで眠れなくなる人もいる。前者なら経過観察が、後者なら治療が、その人にとっての最善になりうる。同じ灰色でも、暮らしが違えば、行き先は違っていい。私にできるのは、正解を手渡すことではありません。その人が自分で選べるよう、地図と補助線を渡すこと。それだけです。

あの方は、その日は決めずに帰られました。三枚のカードを持ち帰り、しばらくして「私は、しばらく待ってみます」と、ご自分の言葉で選ばれた。私が「待て」と言ったからではありません。ご自分の暮らしと、三つの見方を、突き合わせた末の結論でした。その静かな声を聞いたとき、これでよかったのだと、私は思いました。

意見が分かれたら、どうすればいいか

脳動脈瘤で、医師によって言うことが違う。それは、あなたのこぶが「答えの一つに決まらない場所」にある、という合図かもしれません。どちらかの先生を責める必要も、自分を疑う必要も、ありません。

もし食い違いに戸惑ったら、それぞれの先生に「なぜ、そう考えるのですか」と、遠慮なく聞いてみてください。理由を並べれば、地図が見えてきます。それでも迷うなら、三人目の意見を聞くセカンドオピニオンという道があります。脳動脈瘤を専門とする医師は、日本脳神経外科学会などでも確かめられます。大切なのは、いちばん納得のいく意見に従うことではなく、いちばん納得して、自分で選ぶこと。分かれ道の前に立っているのは、他の誰でもない、あなた自身なのですから。

よくある質問

医師によって言うことが違うのは、どちらかが間違っているからですか?

必ずしも、そうではありません。未破裂脳動脈瘤の治療は、破裂のリスクと治療のリスクを天秤にかける領域で、こぶの大きさ・場所・形が「グレーゾーン」にあると、誠実な医師どうしでも判断が分かれることがあります。どちらが間違いというより、灰色の広さそのものが理由であることが多いのです。それぞれの理由を聞いたうえで、ご自身が納得できる道を選んでください。

セカンドオピニオンを受けると、主治医に失礼になりませんか?

失礼にはあたりません。セカンドオピニオンは患者さんの正当な権利で、多くの医師はむしろ歓迎します。紹介状や画像を持って別の医師の意見を聞くのは、主治医を否定する行為ではありません。判断材料を、一つ増やす前向きな一歩です。気になるときは「別の意見も聞いてみたい」と、率直に伝えて構いません。

三人目の医師にも、また違うことを言われたらどうすればいいですか?

意見が三つに分かれても、慌てる必要はありません。それぞれが「なぜそう考えるか」を聞いていくと、重なる部分と分かれる部分が見えてきます。多数決で決めるものではありません。理由を並べ、ご自身の暮らしや価値観に照らして選ぶ。それが大切です。ご自身の場合の最終的な判断は、信頼できる主治医とよくご相談ください。

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開頭手術と血管内治療の両方を駆使する脳神経外科医 井上靖章

井上靖章(いのうえ やすあき)

脳神経外科医・医学博士。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医。京都大学医学部卒業。米国メイヨークリニックでの研究研修、ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院フェローを経て、湖東記念病院 脳神経外科部長。開頭手術と脳血管内治療の両方を自分の手で行う「二刀流」の脳神経外科医。治療方針は、開頭手術・脳血管内治療・経過観察のすべてを並べて示すことを原則としている。

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