コイルを詰めた脳動脈瘤が、また膨らんできた——。脳動脈瘤の再発と言われたとき、もう一度コイル塞栓術等で詰めるのか、それとも開頭手術に切り替えるのか。私が、再発した時の治療方針の決め方をお伝えします。
※この記事の患者さんは実在の方ではありません。治療方針がどう決まるかをお伝えするために組み立てた、典型的なケースです。
「また膨らんできた」と言われて
定期検査のモニターに、見覚えのある一枚が映る。何年か前に、たしかにふさいだはずのこぶ。その入り口のあたりに、うっすらと白い造影剤が入り込んでいる。——一度はふさいだはずの脳動脈瘤が、また膨らんでいる。
この知らせを受けた方が、次の外来でまず口にされるのは、たいてい同じ言葉です。「前の治療は、失敗だったんでしょうか」。
そうではありません。コイル塞栓術等による血管内治療は、一定の割合で再発が起こることを織り込んだうえで、定期的な検査で早めに見つけて対応していく治療です。再発は、想定の範囲内のできごと。失敗ではありません。そして、再発が分かった時点で、すぐに破れるわけでもありません。多くは画像の変化として、先に現れます。だから、慌てて決めなくて大丈夫です。
とはいえ、「ではどうするのか」は考えなければなりません。もう一度コイルを詰めるのか。フローダイバーターを含めたステントを駆使する方法もあります。それとも開頭手術に切り替えるのか。今日は、脳動脈瘤の再発という分かれ道で、私が何を見て決めているかをお話しします。
数年前に治療した、ひとつのこぶ
たとえば、こんな方の場合を考えてみます。外来で繰り返し出会ってきた、典型的な経過です。
50代後半の女性です。数年前、未破裂の脳動脈瘤が見つかり、コイル塞栓術等による血管内治療を受けました。その時の選択は、妥当なものでした。足の付け根から通した細い管で、こぶの中にコイルを詰めてふさぐ。体への負担が小さく、理にかなった初回治療です。
ところが今回、定期的な脳血管撮影で、こぶの入り口(ネック)のあたりが再び造影されていました。詰めたコイルが時間とともに少し沈み込み、こぶの一部に血液の入る隙間ができていたのです。これをコイルコンパクションと呼びます。場所は内頚動脈と後交通動脈の分かれ目あたり。もともと入り口がやや広い、ワイドネックのこぶでした。
つまり、このこぶは「再発しやすい条件」を、初めから少し抱えていた。そこを読み解くことが、次の一手を決める鍵になります。
再発したとき、四つの道
脳動脈瘤の再発が見つかったとき、選択肢は大きく四つです。先に結論を言えば、「どれが正しいか」は再発の理由とその人の状態で変わります。
- 再コイル:もう一度コイルを追加して詰め直す。負担は小さいが、同じ条件のままだと、また再発することがある
- ステント併用コイル:ネックに網目状のステントを置いて支え、その上からコイルを詰める。広い入り口を補強できる
- 開頭クリッピング等:頭を開けて、こぶの根元をクリップで挟み、血流を遮断する。確実性が高い
- 経過観察:再発が小さく、安定していきそうなら、すぐに治療せず画像で見ていく
ここで大切なのは、「もう一度、同じことをする」とは限らないということです。再発したからまた同じ再コイル、と機械的に決めるわけではありません。
脳動脈瘤の再発、それぞれの利点と欠点
四つの道を、順にたどってみます。再発の治療では、「もう繰り返したくない確実性」と「体への負担の小ささ」を、どう釣り合わせるかが軸になります。
まず、血管内でもう一度行う道(再コイル、ステント併用)です。頭を開けずにすみ、体への負担が小さいのが利点。一方で、再発の原因が入り口の広さそのものにある場合、ただ詰め直すだけでは、同じ轍を踏むことがあります。そこで、ステントで入り口を支える工夫が役立ちます。ただし、ステントを置くと、血のかたまりを防ぐ抗血小板薬(血をサラサラにする薬)を一定期間飲む必要が出てきます。
開頭に切り替える道と、待つ道
次に、開頭クリッピング等に切り替える道です。こぶの根元を直接クリップで挟むため、再発の少ない確実な方法です。ただし、一度コイルが入ったこぶは、周りが癒着していたり、コイルの塊があったりして、最初の手術より難しくなることがあります。また、体への負担も、血管内治療より大きくなります。
そして、経過観察という道。再発がごく小さく、変化が緩やかなら、すぐに治療せず、定期的な画像検査で見ていくこともあります。治療には必ずリスクが伴うため、「今は動かない」が最善のときもあります。
数字の話も、少し。従来のコイル塞栓術等では、治療した脳動脈瘤のおよそ1〜2割に再発・再治療が起こると報告されています。決して、まれなことではありません。だからこそ再発は「起こりうること」として、あらかじめフォローの仕組みに組み込まれているのです。こうした治療の一般的な説明は、日本脳神経血管内治療学会や日本脳神経外科学会の一般向け情報も参考になります。
「失敗ですか」と聞かれて
「前の治療は、失敗だったんでしょうか」。そう尋ねる声は、少し低く、うつむき加減でした。何年も「もう大丈夫」と信じて過ごしてきた時間が、一枚の画像でひっくり返されたのだから、無理もありません。
だから私は、造影の話をする前に、まずこう申し上げます。「見つかったのは、ちゃんと見ていたからですよ」。再発は、初めから織り込んである。定期検査は、まさにこの日のために続けてきたものです。これは裏切りではなく、想定どおりの手順が働いた、ということ。そこが伝わるまでは、次の話には進みません。
うつむいていた顔が、少しだけ上がったのを見てから、私はようやくモニターに向き直ります。このとき私が追うのは、「再発したこぶ」そのものではありません。なぜ、ここが再び開いたのか。入り口の広さか。初回の詰まり具合か。血液が、どの角度から壁を叩き続けているのか。コイルは、ただの詰め物ではありません。血流という水圧と、何年もせめぎ合う構造物です。その力学が読めると、次の一手のかたちが、おのずと変わってくる。
この方のこぶは、もともと入り口がやや広かった。ならば、「もう一度、同じように詰めるだけ」では、遠からず同じ場所がまた口を開ける。詰め直して終わり、というわけにはいきません。
同じ轍を踏まないために
では、血管内でもう一度行うか、開頭クリッピング等に切り替えるか。
原因が入り口の広さにある以上、選ぶべきは、ネックを支え直す血管内治療か、根元から確実に挟む開頭か、の二つでした。ただ詰め直すだけの再コイルは、初めから外していました。どちらも、私自身の手で行える治療です。だからこそ、デバイスの都合に引きずられず、この方にとっての最善で選べる。
最後に見比べていたのは、術式の優劣ではありません。この方の年齢と、全身の状態と、どこまで体への負担を引き受けられるかでした。50代後半、全身の状態も良く、できれば開頭は避けたいという希望がある。ネックを支えるステント併用なら、頭を開けずに、再発の原因そのものに手を当てられる。抗血小板薬を一定期間続ける必要はあるけれど、それは引き受けられる範囲でした。最終的に、私たちはこの道を選びました。
ただ、これは「この方だから」の答えです。もっとお若い方で、これから妊娠・出産などを計画される患者さんなら、薬を長く続けずにすむよう、一度で確実な開頭をお勧めしたかもしれない。再発した部分と分枝との関係しだいでは、血流ごと作り替える発想(フローダイバーター等)に切り替えることも考えます。同じ再発でも、選ぶ道は人によって逆になる。
迷ったのは、術式より「いつ」
本当に手こずったのは、どの方法かではなく、「いつやるか」でした。再発はまだ小さい。もう半年、画像で追って、本当に進むこぶなのかを見極めてから動く。その道も、十分にありえた。カテーテルを進めれば、それ自体にわずかなリスクが伴います。急ぎすぎれば、まだ動かなくてよいものに手を出すことになる。待ちすぎれば、静かに大きくなる。「待つ」と「動く」の境目は、いつも細い。迷った末、入り口の広さと造影の変化を決め手に、今回は動くほうへ踏み出しました。あの半年を待っていたらどうだったか——答え合わせのできない問いを、今も時々、めくり返しています。
再発は、行き止まりではない
再発と言われると、すごろくの振り出しに戻されたような気がするかもしれません。でも、盤の上の位置は、あのころとは違います。一度目より、こぶの癖も、あなたの体のことも、私たちはずっとよく知っている。同じ場所に立っているようで、手元にある情報は、格段に増えています。
だから、二度目の答えも一つではありません。もう一度コイルを詰める方、開頭に切り替える方、しばらく見守る方。どれも、ありえます。前に治療を受けた病院の方針と、別の医師のセカンドオピニオンが食い違っても、どちらかが誤っているわけではありません。そこがグレーな分かれ道だ、という証拠です。大事なのは、増えた手札で、もう一度ていねいに選び直すこと。再発をなかったことにする必要は、ありません。その選び直しに付き合うことなら、私は何度でも、となりに座ります。
よくある質問
コイルで治療した脳動脈瘤が再発しました。前の治療は失敗だったのですか?
いいえ。コイル塞栓術等は、一定の割合で再発が起こることを前提に、定期検査で早めに見つけて対応していく治療です。再発が見つかったのは、きちんとフォローできている証拠でもあります。再治療の方針は主治医にご相談ください。
再発したら、また同じコイル治療になりますか?
必ずしも同じではありません。再発の原因(入り口の広さなど)によって、ステントを併用したり、開頭手術に切り替えたりします。原因に合わせて方法を選び直すのが一般的です。迷うときはセカンドオピニオンという道もあります。
再発した脳動脈瘤は、すぐ破裂しますか?
多くは画像の変化として先に現れ、すぐに破裂するわけではありません。慌てず次の治療を相談できることが多いものの、変化の早さによります。ご自身の場合は主治医にご確認ください。
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