脳神経外科の道具箱 第17回

ステントリトリーバーとは?血栓を絡めて引き抜く道具を脳神経外科医が解説

ステントリトリーバーとは、脳の血管を詰まらせた血のかたまり(血栓)を、網目状の器具で絡めて引き抜くための道具です。急性期の脳梗塞に対する血栓回収療法で使う、中心的なデバイスです。どうやって血栓をとらえるのか。ステントリトリーバーとは何かを、脳神経外科医の井上靖章が、患者さん・ご家族にわかりやすく解説します。

2026.9.25 読了の目安 約6分 井上靖章

※一般的な情報です。個別の診断・治療に代わるものではありません。

この記事の目次
  1. ステントリトリーバーとは——血栓を「絡めて引く」網目の道具
  2. どうやって血栓をとらえるのか——治療の流れ
  3. ステントリトリーバーが変えたもの
  4. 引き抜いた血栓を、光にかざす
  5. よくある質問
  6. おわりに

ご家族が脳梗塞になり、「血栓回収という治療をします」と説明されたとき。その治療で使われる中心的な道具が、このステントリトリーバーです。聞き慣れない名前ですが、脳梗塞の治療を大きく変えた、重要なデバイスです。

この記事では、ステントリトリーバーとは何かを、その名前を手がかりに説明していきます。この道具が「何をする器具なのか」がわかると、血栓回収という治療の全体像も、ぐっとつかみやすくなるはずです。

ステントリトリーバーとは——血栓を「絡めて引く」網目の道具

脳梗塞とは、脳の血管が血栓で詰まり、その先へ血液が届かなくなる病気です。血液が途絶えると、脳の細胞は時間とともに死んでいきます。詰まりを一刻も早く取り除くことが大切になります。

ステントリトリーバーとは、この詰まった血栓を、網目状の金属で直接とらえて引き抜くための器具です。名前は「ステント(網目状の筒)」と「リトリーバー(回収するもの)」を組み合わせた言葉です。名前そのものが役割を表しています。日本語では「血栓回収ステント」と呼ばれることもあります。

イメージとしては、血栓に金属の網をからませて、そっと引き出す道具です。まず、カテーテルの中に細くたたまれた状態で運ばれ、血栓の位置で網が広がります。すると、網の目のあいだに血栓が食い込み、しっかりとつかまえられるのです。

どうやって血栓をとらえるのか——治療の流れ

ステントリトリーバーを使う治療は、頭を切らずに血管の中から行う血栓回収療法です。大きな流れは次のとおりです。

  • 足の付け根(大腿動脈)または手首(橈骨動脈)から、カテーテル(細い管)を入れる
  • 血管の中を進めて、脳の詰まった場所まで到達する
  • 細くたたんだステントリトリーバーを、血栓の中で広げる
  • しばらく置いて、網に血栓をしっかり食い込ませる
  • 最後に、器具ごと血栓をゆっくり引き抜き、血流の再開を確認する

血栓を取り除く器具には、もうひとつアスピレーションカテーテル(血栓を吸い込むタイプ)があります。実際の治療では、ステントリトリーバーとこの吸引を組み合わせて使うことも少なくありません。どちらを使うか、あるいは併用するかは、血栓の性質や詰まった場所によって選びます。この治療の全体像は「血栓回収とは何か」でくわしく解説しています。

ステントリトリーバーが変えたもの

ステントリトリーバーが広く使われるようになったのは、比較的最近のことです。それまでは、太い血管の大きな詰まりを、くすりだけでは十分に治しきれない場面がありました。

くすりで血栓を溶かす治療がt-PA(血栓溶解療法)です。t-PAは強力ですが、大きな血栓は溶けきらないことがあるという弱点があります。そこでステントリトリーバーが登場すると、太い血管の詰まりを物理的に取り除けるようになりました。このように、道具ひとつで治療の可能性が大きく広がったのです。t-PAについては「t-PAとは何か」で解説しています。

引き抜いた血栓を、光にかざす

ステントリトリーバーで血栓を引き抜いた瞬間、私はよく、取れた血栓をそっと光にかざして見ます。赤いもの、白っぽいもの、硬いもの、もろいもの——血栓には、一つとして同じ表情のものがありません。その色や質感から、「なぜこの血管が詰まったのか」を読み取ろうとするのです。心臓から飛んできたのか、その場でできたのか。次の再発を防ぐヒントが、その小さなかたまりに詰まっています。

一度で、するりと取れる。あの手応えは、何度経験しても格別です。でも私は、取れて終わりにはしない。この血栓が語ることに、いつも耳を澄ませています。

もちろん、いつも一度で取れるわけではありません。たとえば、血栓が硬かったり、血管の曲がりが強かったりすると、位置を変えて何度か挑むこともあります。「一発で取る」ことにこだわりつつ、無理はしない。血管を傷つけないことも、同じくらい大切だからです。この見極めにこそ、術者の経験が出ると考えています。

私はこの道具の使い手であると同時に、開頭手術も行う脳神経外科医です。ステントリトリーバーを使う脳血管内治療で完結する夜もあれば、開頭手術に切り替えて挑む夜もあります。道具から治療全体までを一望できること——救急の現場では、それがそのまま判断の速さになります。

よくある質問

ステントリトリーバーは、体内に入れっぱなしにするのですか?

いいえ。血栓をとらえたあと、器具は血栓ごと体外へ引き抜きます。血管の中に残す「ステント留置」とは目的が異なり、あくまで血栓を回収するために一時的に使う道具です。

ステントリトリーバーとアスピレーションカテーテルは、どう違うのですか?

ステントリトリーバーは血栓を網で絡めて引き抜き、アスピレーションカテーテルは血栓を吸い込んで取り除きます。どちらを使うか、または併用するかは、血栓の性質や詰まった場所によって判断するのが一般的です。

ステントリトリーバーを使えば、必ず血栓を取り除けますか?

多くの場合に有効です。ただし、血栓の硬さや血管の形によっては、取り除きにくいこともあります。何度か試みることもあり、結果には個人差があります。ご自身の場合は主治医にご確認ください。

おわりに

ステントリトリーバーとは、脳の血管を詰まらせた血栓を、網目状の器具で絡めて引き抜く道具です。この小さなデバイスが、太い血管の脳梗塞に立ち向かう大きな力になっています。そして何より大切なのは時間。「顔・腕・言葉」に異変を感じたら、迷わず救急車を呼んでください。

関連する治療や道具については、「脳神経外科の道具箱」の関連記事(血栓回収とは何か・t-PAとは何か)でも解説しています。アスピレーションカテーテルなどについては、今後の記事で取り上げる予定です。

参考リンク:日本脳神経血管内治療学会「脳梗塞に対する血栓回収療法」 / 日本脳卒中学会

開頭手術と血管内治療を駆使する脳神経外科医 井上靖章

井上靖章(いのうえ やすあき)

脳神経外科医・医学博士。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医。京都大学医学部卒業。米国メイヨークリニック留学、ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院フェローを経て、湖東記念病院 脳神経外科部長。開頭手術と脳血管内治療の両方を自分の手で行う「二刀流」の脳神経外科医。治療方針は、開頭手術・脳血管内治療・経過観察のすべてを並べて示すことを原則としている。

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