ガンマナイフとは、頭を切らずに、細いガンマ線(放射線)を病巣の一点に集中させて治す「放射線の手術」です。転移性脳腫瘍や聴神経腫瘍、脳動静脈奇形(AVM)などが対象になります。開頭手術とどう違うのか。ガンマナイフとは何かを、脳神経外科医の井上靖章が、患者さん・ご家族にわかりやすく解説します。
脳に病巣が見つかったとき、多くの方は「頭を開ける手術しかないのだろうか」と考えます。しかし、病気によっては、頭を切らずに治すという選択肢があります。その代表が、ガンマナイフです。
この記事では、ガンマナイフとは何かを、「切らない手術」という一見ふしぎな言葉の中身から、順に解きほぐしていきます。
ガンマナイフとは——切らずに、放射線を一点へ集める治療
ガンマナイフとは、たくさんの方向から出した細いガンマ線(放射線の一種)を、脳の中の病巣という一点に集中させる治療装置です。1本1本の線は弱く、通り道の正常な脳にはほとんど影響しません。ところが、線が集まる焦点だけには強い放射線が当たる。ちょうど、虫めがねで日光を一点に集めるようなイメージです。
この仕組みによって、まるでナイフで切り取ったかのように、病巣だけを狙って治療できます。だからこそ「ガンマナイフ」と呼ばれます。けれど実際には、メスも傷もありません。ガンマナイフは、「切らない、放射線による手術」です。
どんな病気に使うのか——ガンマナイフの対象
ガンマナイフは、特に脳の中の比較的小さな病巣で力を発揮します。おもな対象は、次のとおりです。
- 転移性脳腫瘍:ほかの臓器のがんが脳に転移したもの。数が限られている場合などに、狙って治療する
- 聴神経腫瘍・髄膜腫:良性の脳腫瘍。切らずに、大きくなるのを抑えたり小さくしたりする
- 脳動静脈奇形(AVM):動脈と静脈が異常につながった血管のかたまり(ナイダス)に照射し、時間をかけて閉塞させる
- 一部の脳動脈瘤・三叉神経痛など:状態によっては、放射線による治療が選ばれることもある
ここで、少していねいに説明したいことがあります。ガンマナイフは、病巣を「取り出す」治療ではありません。むしろ、放射線を照射して、腫瘍の増殖を抑えたり、血管の異常を少しずつ閉じたりする治療です。効果はすぐには現れず、数ヶ月から数年かけて、ゆっくりと立ちあらわれます。
開頭手術との違い——「切る」か「照射する」か
では、頭を開ける手術(開頭手術)と、ガンマナイフは何が違うのでしょうか。大きな違いは、病巣に「触れて取り除く」か、「外から照射する」かという点です。
- 開頭手術:頭を開けて、病巣に直接アプローチする。腫瘍を摘出したり、脳動脈瘤の根元を挟んで血流を遮断したりできる。その場で確実に処置できるのが強み
- ガンマナイフ:頭を切らずに照射する。体への負担が小さく、多くは2〜3日ほどの入院ですむ。ただし効果が出るまで時間がかかり、大きすぎる病巣には向かない
どちらが優れているという話ではありません。病巣の種類・大きさ・場所・全身の状態によって、適した方法が変わるのです。だからこそ、複数の選択肢の中から、その方に最も合う治療を選ぶことが大切になります。
治療の流れ——どんなふうに進むのか
ガンマナイフの治療は、多くの場合、次のように進みます。まず、頭を固定する枠(フレーム)などを用いて、狙う位置がずれないようにする。次に、MRIやCTで病巣の位置を精密に測る。そのうえで、コンピュータで照射の計画を立て、装置の中で照射を行います。
照射そのものに痛みはありません。多くは日帰りから2〜3日ほどの入院ですみます。また、治療後は定期的に画像検査を受け、病巣がどう変化していくかを確認していく。「照射して終わり」にせず、その後の経過をていねいに追っていくのが、この治療の特徴です。
切らない、という選択肢を持つ
私はふだん、頭を開ける開頭手術と、血管の中から治す脳血管内治療の、両方を手がけています。そのうえで、ガンマナイフという「切らない治療」も、当院で選べる治療のひとつとして備えています。開頭手術・血管内治療・放射線治療。このどれもを「知っているだけ」ではなく、実際の選択肢として示せるかどうかで、患者さんに提案できる道の幅は変わるのです。
大切なのは、ひとつの方法にこだわることではありません。その患者さんにとって、いちばん負担が少なく、いちばん確実な道はどれか。それを冷静に見きわめることだと思っています。
たとえば、高齢で全身の状態から開頭手術が難しい方や、脳の深い場所にある小さな病巣。こうした場面で、ガンマナイフが力になることがあります。反対に、大きな病巣や、すぐに処置が必要な状態では、開頭手術のほうが向いています。どの手を選ぶかを、患者さんと一緒に考える。そのために、私はいつも複数の選択肢を頭に置いています。
誤解されやすい点を、ひとつ挙げておきます。「切らない」と聞くと、簡単な治療のように感じるかもしれません。けれど、どの病巣にどれだけ照射するかの見きわめには、繊細な判断が要ります。だからこそ、「切らない選択肢がある」ことと、「それがあなたに最適かどうか」は、分けて考える必要があります。迷ったときは、遠慮なくご相談ください。
よくある質問
ガンマナイフの治療は痛いですか。入院は必要ですか。
照射そのものに痛みはありません。多くは日帰りから2〜3日ほどの入院で終わるのが一般的です。頭を固定する枠を使う場合の準備などについては、実施する施設によって異なるため、主治医にご確認ください。
ガンマナイフを受ければ、腫瘍はすぐに消えますか。
すぐに消えるわけではありません。放射線で増殖を抑える治療のため、効果は数ヶ月から数年かけてゆっくり現れるのが一般的です。治療後は定期的な画像検査で、病巣の変化を確認していきます。
ガンマナイフと開頭手術、どちらがよいのですか。
病巣の種類・大きさ・場所・全身の状態によって、適した方法が変わります。どちらが優れているというものではなく、複数の選択肢から最も合うものを選びます。ご自身の場合は、主治医とよくご相談ください。
おわりに
ガンマナイフとは、頭を切らずに、放射線を一点に集めて治す「放射線の手術」です。転移性脳腫瘍や聴神経腫瘍、脳動静脈奇形などに対し、体への負担を抑えて治療できる選択肢のひとつです。「頭を開けるしかない」と思い込む前に、こうした道があることを、どうか知っておいてください。
脳の治療の選択肢については、「脳神経外科の道具箱」の関連記事(脳動脈瘤クリップとは何か・脳のバイパス手術とは何か)もあわせてご覧ください。脳腫瘍の手術で使う5-ALA(術中蛍光診断)などについては、今後の記事でも順次くわしく取り上げていく予定です。
参考リンク:ガンマナイフ(Wikipedia) / 日本ガンマナイフ学会
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