脳動脈瘤のセカンドオピニオンで選択肢を公平に説明する脳神経外科医 井上靖章

脳動脈瘤のセカンドオピニオン — 希望される方へ、執刀医としての私の本音

脳動脈瘤のセカンドオピニオンを、私はいつでも歓迎しています。主治医を替えることでも、薄情なことでもありません。納得して決めるための、患者さんの当然の権利です。なぜ執刀医の私がそう考えるのか——受け方や費用にも触れながら、連載「脳神経外科医 井上靖章 手記」第7回として、本音を書きます。

外来で、声をひそめて切り出された一言

診察室で、ひととおり病気の説明を終えたあとのことでした。その方は、少し言いにくそうに、声をひそめて切り出しました。

「先生、こんなことお聞きして失礼かもしれませんが……ほかの先生の意見も、聞いてみてもいいんでしょうか」

申し訳なさそうな、その表情。まるで、浮気の告白でもするかのような声の低さ。私は、いつも少しだけ切なくなります。そんなふうに、遠慮する必要なんて、何もないのに。

「どうぞ、ぜひ。良い先生を知っていますから、ご紹介もできますよ」。私はそうお答えします。脳動脈瘤という、人生を左右しかねない病気を前にして、ほかの専門家の意見も聞いて納得したい——それは、ごく自然な気持ちです。この「言い出しにくさ」から、ほどいていきます。これまでの連載はこちらから。

なぜ私は、セカンドオピニオンを歓迎するのか

まず、いちばん誤解されやすいことを。セカンドオピニオンは、今の主治医を見限ることでも、その場で転院することでもありません。別の医療機関の専門医から客観的な意見を聞き、それを持ち帰って、もう一度主治医と相談して決める——そのための仕組みです。公的な医療機関でも、その受け方が広く案内されています

そのうえで、なぜ私が歓迎するのか。理由は、脳動脈瘤という病気が、答えを一つに決めにくい病気だからです。

未破裂脳動脈瘤は、「あるから即治療」でも「あっても放っておく」でもありません。部位・大きさ・形、そしてその方の年齢や背景によって、破裂のリスクは大きく変わる。治療にも、わずかながらリスクがある。だから、治療すべきか、経過観察でいくか、専門医の間でも意見が分かれることがあるのです。治療すると決めたあとも、頭を開ける開頭手術(クリッピングやバイパス・トラッピング等)と、カテーテルで治す脳血管内治療(コイル塞栓術・フローダイバーター・WEB等)のどちらが向くかは、動脈瘤ごとに違います。

医師の側の、正直な事情

医師には、それぞれ得意な術式があります。だから、相談する相手によって、勧められる治療が変わることも、現実にはある。私は、自分の得意に引き寄せず、経過観察も含めて、すべての選択肢を平らに並べたい。そう思っているからこそ、別の専門医にもう一度フラットに診てもらうことに、何のためらいもないのです。むしろ、それが患者さんの納得に近づくなら、歓迎します。

実際、私のセカンドオピニオン外来に来られる方の相談は、大きく二つに分かれます。「手術を勧められたが、本当に必要か」。そして「経過観察と言われたが、本当に大丈夫か」。方向は正反対なのに、根っこは同じです。自分の場合の理由を、腑に落ちるまで聞けていない。セカンドオピニオンの本当の仕事は、意見を上書きすることではなく、この「腑に落ちる」を届けることだと思っています。

私自身、人の意見に助けられて、ここまで来た

もう一つ、私がセカンドオピニオンを当たり前のことだと感じる、個人的な理由があります。

私自身が、たくさんの人の意見と視点に助けられて、今の自分になったからです。メイヨークリニックで、千葉で出会った山﨑誠先生のもとで、札幌の谷川緑野先生や上山博康先生の背中を追いながら、ボストンのサルタン先生の下で。一人の頭で考えられることなど、たかが知れている。迷ったときに人の意見を求めるのは、私にとってずっと、当たり前のことでした。医師である私でさえ、そうなのです。

だから、患者さんが「別の意見も聞きたい」と思うのは、何もおかしなことではない。むしろ、それだけ真剣にご自身の体と向き合っている証拠だと、私は受け取っています。

もし自分の家族に脳動脈瘤が見つかったら、私はきっと、信頼できる別の専門家の意見も聞きたいと思うでしょう。目の前の患者さんも、誰かにとっての、その家族です。その方が納得して進むために意見を集めるのは、ごく当たり前のこと。そう考えると、セカンドオピニオンを渋る理由は、私には一つも見当たりません。

受け方を、少しだけ実務的に

気持ちの話が続いたので、ここで、迷う時間を減らすための実務を、手短に。難しくありません。

必要なのは、今の主治医に用意してもらう紹介状(診療情報提供書)と、これまでの検査データ(CT・MRI・脳血管撮影などの画像)です。これがないと、別の医師は正確な評価ができません。紹介状は封をして渡されることが多いので、開けずにそのままお持ちください。あとは、受けたい医療機関の窓口で予約をして、聞きたいことをメモにまとめておく。それだけです。ご家族と一緒に来られる方も、たくさんいます。私の外来(滋賀・湖東記念病院)で受ける場合の流れ・費用・持ち物は、実務だけを別にまとめたご案内に置いてあります。

当日の流れも、お伝えしておきます。多くの施設で、時間はおおむね30分から1時間。持参いただいた画像を一緒に見ながら、病状の評価と、考えられる選択肢、それぞれの利点と注意点をお話しします。大事なのは、その場で何かを決める必要は、まったくないということです。聞いて、持ち帰って、主治医と、ご家族と、ゆっくり突き合わせる。セカンドオピニオンは「二つ目の結論」というより、「考えるための二つ目の材料」です。

費用と、保険のこと

よく聞かれるので、正確に書いておきます。意見を聞く側のセカンドオピニオンは、原則として自由診療で、公的医療保険は使えません。料金や時間は医療機関ごとに決められていて、金額にも幅があります。具体的な費用は、受診を考えている医療機関に直接ご確認ください。一方で、主治医に書いてもらう紹介状の作成は、通常の保険診療です。なお、治療そのもの(手術・検査・入院)にかかる費用が気になる方には、脳動脈瘤の治療費用の解説を別に用意しています。

「保険が効かない」と聞くと、身構えてしまうかもしれません。けれど、その後の人生を左右する判断のための、専門家の時間をまとめて確保する費用だと思えば、決して高い買い物ではない。私は、そう思っています。

費用の話のついでに、ひとつ。私が外来をしている湖東記念病院では、来院せずに、画面越しで画像を一緒に見ながら意見をお伝えする「オンラインでのご相談」を受けています。いまの主治医のもとで治療を続けることを前提とした意見提供で、費用はいただいていません(無料です)。お聞きになったうえで当院での治療をご希望になれば、あらためて来院いただき、健康保険の診療になります。申し込みは病院のフォームからで、お電話では受け付けていません。遠方の方や、まず話だけ聞いてみたい方は、病院のご案内をご覧ください。

主治医に、どう切り出すか

とはいえ、最初の患者さんのように、主治医にどう伝えればいいか分からず、足踏みしてしまう方は本当に多い。難しく考えなくて大丈夫です。たとえば、こんな一言で十分です。

「大事な体のことなので、納得して決めたいんです。別の先生の意見も一度聞いてみたいので、紹介状をお願いできますか」

これで、角が立つことはまずありません。もし私が主治医の立場でそう言われても、嫌な気持ちには、まったくならない。紹介状をお願いするのは、失礼なことではないのです。それでもどうしても言い出せない、という方は、次の外来にご家族に同席してもらい、ご家族の口から切り出してもらう手もあります。誰の口からでも、動き出せば同じ道です。

もし、私のところへ来てくださるなら。私は、その動脈瘤を一から自分の目で診て、「私ならこう考えます」と、できるだけ公平にお伝えします。元の主治医の先生と違う意見になることもある。そのときは、あなたが板挟みで苦しくならないよう、お話の仕方にも気を配ります。私が大事にしているのは、治療を勧めることではなく、あなたが納得して決められること。なぜそこにこだわるのかは、「なぜ私は脳動脈瘤治療に注力するのか」に書きました。

外来で、よく聞かれること

診察室でいただく質問のうち、特に多いものに、ここでお答えしておきます。

Q. セカンドオピニオンを受けると、主治医に悪い印象を与えませんか?

いいえ。患者さんの正当な権利で、関係を壊すものではありません。紹介状をお願いするのも、失礼にはあたりません。

Q. 何を持っていけばいいですか?

主治医からの紹介状(診療情報提供書)と、CT・MRI・脳血管撮影などの検査データ(画像)です。紹介状は未開封のままお持ちください。聞きたいことをメモにしておくと、さらに話が早くなります。

Q. 受けたら、そのまま転院や手術になりますか?

いいえ。意見を聞く場であって、何かを強制されることはありません。聞いた意見を主治医と相談して決められますし、ご希望があれば、改めて受診に進むこともできます。「聞くだけ聞いて、元の主治医のところで治療する」——それも、ごく普通の、正しい使い方です。

Q. 本人が高齢で動けません。家族だけで意見を聞きに行けますか?

多くの施設で、ご本人の同意書があれば、ご家族のみでの相談が可能です(施設ごとに条件が異なるため、予約時にご確認ください)。ご本人を連れ回さずに情報を集められるのは、セカンドオピニオンの実務的な利点の一つです。

Q.「経過観察でいい」と言われましたが、それでも受けていい?

もちろんです。治療か経過観察かは、専門医でも判断が分かれうる領域です。納得して様子を見るためにも、別の意見を聞く価値があります。

迷う時間は、悪いものではない

脳動脈瘤と言われて、頭の中が不安でいっぱいのまま、よく分からないうちに方針が決まっていく。それが、いちばん避けたいことだと私は思います。

立ち止まって、別の意見を聞いて、自分の言葉で納得してから決める。二人の専門医が同じ意見なら、安心して進めます。違う意見なら、考える材料が増えます。どちらに転んでも、あなたの損にはなりません。その時間は、けっして遠回りではありません。受けるかどうかも含めて、最後は診察のうえで一人ひとり違う。だからこそ、迷っているなら、まずは「どう相談すればいいか」だけでも知っておいてほしい。

迷いは、真剣さの別名です。真剣なあなたには、納得して選ぶ権利があります。

その一歩を、あなたと一緒に踏み出せたなら、嬉しいです。

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脳動脈瘤のセカンドオピニオンを歓迎する脳神経外科医 井上靖章

井上靖章(いのうえ やすあき)

脳神経外科医・医学博士。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医。京都大学医学部卒業。米国メイヨークリニックでの研究研修、ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院フェローを経て、湖東記念病院 脳神経外科部長。開頭手術と脳血管内治療の両方を自分の手で行う「二刀流」の脳神経外科医。治療方針は、開頭手術・脳血管内治療・経過観察のすべてを並べて示すことを原則としている。

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