フローダイバーターやWEBという新しい血管内治療を勧められた、あるいは耳にした——。自分の脳動脈瘤に本当に向いているのか、コイルと何が違うのか。フローダイバーターの適応とWEBとの違いを、私が、血管の形から読み解きます。
※この記事の患者さんは実在の方ではありません。治療方針がどう決まるかをお伝えするために組み立てた、典型的なケースです。
「新しい治療」と聞いて
新しい治療がある、と聞くと、それが自分にとっても一番いい治療のように思えてくる。無理もないことです。とくに脳動脈瘤の世界では、ここ10年ほどで血管内治療の道具(デバイス)が、ぐっと増えました。フローダイバーター、そしてWEB。テレビやネットで名前を耳にして、「自分も、それで治せるのでは」と期待して来られる方は、少なくありません。
けれど、新しい道具には、それぞれ「得意な形」があります。どんな脳動脈瘤にも一番、という万能の一本は、残念ながらありません。今日は、フローダイバーターの適応と、WEBが向く場面の違いを、血管のどこに・どんな形でこぶがあるか、という視点からお話しします。選ぶ基準は、こぶに合うかどうか。ただ、それだけです。
血管の分かれ目に、できていた
これも、外来でよく出会う典型的な場面です。
60代前半の男性です。未破裂脳動脈瘤が、中大脳動脈という血管の「分かれ目(分岐部)」に見つかりました。入り口が広い、ワイドネックと呼ばれる形です。そのため、コイル塞栓術等だけでは、コイルがこぶの外に出てきやすく、詰めきるのが難しいタイプでした。
この方は、こう言われました。「フローダイバーターで治せるんですよね?」。テレビで見た、という新しい治療に、期待を寄せておられました。その気持ちは、よく分かります。けれど、画像を見た私の考えは、少し違いました。このこぶの場所には、フローダイバーターは、第一の選択肢ではない。なぜか。それを説明するには、デバイスの「得意な形」の話が要ります。
デバイスには、得意な形がある
入り口の広い脳動脈瘤に対する血管内治療の選択肢は、いくつかあります。向き不向きは、こぶの場所と形で決まります。
- フローダイバーター:こぶのある血管(母血管)に網目のステントを置く。まっすぐな血管の「側壁」にできた大型のワイドネック向き
- WEB:こぶの「中」に編み込みのカゴを入れて、入り口をふさぐデバイス(WEBは製品の名前)。血管の「分かれ目」にできたワイドネック向き
- ステント併用コイル:分かれ目のこぶにも使える。ステントで支えながらコイルを詰める
- 開頭クリッピング等:頭を開けて根元を挟む。最も実績が長く、確実性が高い
大切なのは、「新しいデバイス=フローダイバーター」ではないということです。また、新しい血管内治療には、フローダイバーターもWEBもあり、それぞれ向く場所が違います。
フローダイバーターの適応、WEBとの違い
フローダイバーターの適応と、WEBとの違い。鍵はただ一つ、こぶが「まっすぐな血管の側壁」にあるのか、「血管の分かれ目」にあるのか、です。
まず、フローダイバーターです。これは、こぶのある血管そのものに網目のステントを置き、こぶへの血流を減らして時間をかけて固める治療です。だから、フローダイバーターの適応は、内頚動脈のような「まっすぐな血管の側壁」にできた、大型でワイドネックのこぶが中心になります。一方で、血管の分かれ目にできたこぶや、破れてしまったこぶには、基本的に向きません。また、母血管にステントを置くため、血のかたまりを防ぐ抗血小板薬(血をサラサラにする薬)を、一定期間続ける必要があります。
WEBは、分かれ目のこぶへ
次に、WEB。こちらは、こぶの中に編み込みのカゴを入れて、入り口を内側からふさぐ仕組みです。母血管にステントを置かないため、血管の「分かれ目」にできたワイドネックのこぶに向きます。中大脳動脈の分岐部や、脳底動脈の先端などです。日本では2020年から使えるようになりました。さらに、嚢内におさめるデバイスのため、術後に長期の抗血小板薬を続けなくてよいことが多いのも、患者さんにとっての利点です。ただし、これも「いつも要らない」と単純には言えません。
このほか、分かれ目のこぶには、ステント併用コイルという道もあります。確実性を重んじるなら、開頭クリッピング等という選択も、もちろん残ります。こうしたデバイスの説明は、日本脳神経血管内治療学会や日本脳神経外科学会の情報も参考になります。
まず、入り口を見る
「フローダイバーターで治せるんですよね?」。その問いに、私はすぐ「はい」とも「いいえ」とも答えませんでした。代わりに、モニターのこぶを拡大して、こう申し上げました。「先に、このこぶの入り口を、一緒に見てみましょう」。
まっさきに測るのは、こぶの入り口。ネックの広さと、その口の形です。デバイスの名前は、その次。ここが広くて、コイルを詰めても外へこぼれてしまう。そうと分かって、はじめて「では、何で支えるか」という新しい道具の話が始まります。逆に入り口が狭く、コイルだけで安定するなら、わざわざ新顔を持ち出す理由はない。先に道具があるのではなく、先にこぶの形がある。手術の華やかさより、私はこの地味な採寸から入る性分です。
この方のこぶは、入り口が広く、コイル単独では抑えきれない。だから新しいデバイスが視野に入る。ところが、できた場所は血管の分かれ目でした。だとすれば、まっすぐな側壁向きのフローダイバーターよりも、分かれ目に向くWEBや、ステント併用コイルのほうが、素直に理にかなう。入り口の一点を見定めただけで、進むべき方向が、ぐっと絞られました。
新しい、が最適とは限らない
フローダイバーターを選ばなかった理由も、そこにあります。
こぶの入り口が、どんな地形の上に開いているか——側壁か、分かれ目か。新しさでも、ご本人の期待でもなく、それが道具を決めました。分かれ目にできたワイドネックには、母血管に置くフローダイバーターより、こぶの中におさめるWEBや、支えながら詰めるステント併用コイルが素直に合う。だから私は、分かれ目に向く道具を中心に考えましょう、とお伝えしました。今回、フローダイバーターは主役から外れます。長く抗血小板薬を続けにくい事情があるなら、WEBの利点は、いっそう生きてきます。
それでも、どれにするかは、その日のうちには決め切りませんでした。フローダイバーター、WEB、ステント併用コイル、そして開頭。四つの長所と短所を紙に書き出してお見せし、ご本人が心から腑に落ちてから進める。道具が増えたぶん、こちらが言葉を尽くす時間も、確実に長くなりました。
もちろん、これは「このこぶが分かれ目にあるから」の答えです。もし同じワイドネックでも、内頚動脈のまっすぐな側壁にあったなら、私はフローダイバーターを真っ先に考えたでしょう。フローダイバーターが劣るのではなく、輝く場所が違う。それだけのことです。
「新しい」を、安心の根拠にしない
最後まで頭の隅に残り続けたのは、これらの道具が、まだ若いという事実です。フローダイバーターもWEBも、世に出てからの年月は、開頭手術ほど長くない。短期・中期の成績は良くても、何十年という超長期のデータは、まさにこれから積み上がっていく途中です。だから、とくにお若い方の場合、私は確実性の実績が厚い開頭クリッピング等との間で、ぎりぎりまで決めかねます。そういうときは、若手にも遠慮なく意見を求める。新しい道具の世界は動きが速く、経験の年数だけでは追いつけないからです。「新しい」は、それだけでは、夜眠るための根拠にはならない——そこは、ごまかさずにお伝えします。
新しさではなく、合うかどうか
新しい治療の名前を聞くと、それが自動的に一番いいものに思えてきます。私自身、新しい道具の話には、つい身を乗り出すたちです。けれど、脳動脈瘤の治療で本当に大切なのは、新しいかどうかではありません。あなたのこぶの場所と形に、その道具が合っているかどうかです。
フローダイバーターが輝くこぶ、WEBが輝くこぶ、コイルや開頭が向くこぶ。それぞれ、違います。だからこそ、「新しい治療を勧められたけれど、本当に自分に合うのだろうか」と立ち止まったなら、その問いは、まったく正しい。その問いごと、別の医師にぶつけてみるのがセカンドオピニオンです。あなたに合う道具を決めるのは、名前の新しさではありません。あなたの血管の形です。
よくある質問
フローダイバーターは、どんな脳動脈瘤に向いていますか?
主に、内頚動脈などの「まっすぐな血管の側壁」にできた、大型でワイドネック(入り口が広い)のこぶに向きます。一方、血管の分かれ目にできたこぶや、破れてしまったこぶには、基本的に向きません。フローダイバーターの適応はこぶの場所と形で決まるため、主治医にご確認ください。
WEBはフローダイバーターと何が違うのですか?
置く場所が違います。フローダイバーターはこぶのある血管に置くのに対し、WEBはこぶの中に入れて入り口をふさぎます。WEBは血管の分かれ目のワイドネックに向き、術後に長期の抗血小板薬を続けなくてよいことが多いのが特徴です。どちらが合うかは、こぶの場所と形によります。
新しい治療の方が、コイルより良いのですか?
一概には言えません。入り口が狭いこぶなら、コイル塞栓術等だけで十分なこともあります。新しいデバイスは、コイルだけでは難しいワイドネックや大型のこぶのために生まれたもので、「新しいから良い」わけではありません。こぶに合うかどうかで選びます。
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