未破裂脳動脈瘤の手術と経過観察という二つの選択を象徴する、二手に分かれる病院の廊下

未破裂脳動脈瘤は手術すべきか| 分岐点

脳ドックで未破裂脳動脈瘤が見つかると、多くの方が「手術すべきか、様子を見ていいのか」で立ち止まります。私が、未破裂脳動脈瘤の手術と経過観察をどう判断しているのか——その考え方をお伝えします。

※この記事の患者さんは実在の方ではありません。治療方針がどう決まるかをお伝えするために組み立てた、典型的なケースです。

「いつ破れるのか」という問い

「先生、これは、いつ破れるんでしょうか」

脳ドックの結果を手に来られた方が、最初に口にされた言葉でした。前の週まで、ご自分の頭の中に動脈瘤があるとは考えたこともなかった。それが一枚の画像で、突然「いつ破れるか分からないもの」に変わってしまう。

未破裂脳動脈瘤とは、脳の血管の壁の一部がふくらんでできた「こぶ」のことです。破れていない状態で見つかったものを、こう呼びます。多くは症状がなく、脳ドックや別の検査のついでに偶然見つかります。見つかった時点では、まだ何も起きていません。それでも、頭の中に爆弾を抱えて生きるのかと思えば、誰だって眠れなくなります。

未破裂脳動脈瘤は手術すべきなのか。それとも、このまま様子を見ていいのか。今日はその「分かれ道」を、私がどう考えているかをお話しします。

偶然見つかった、ひとつのこぶ

ここでは、典型的な例として、ひとりの方の状況を思い浮かべてみます。

60代前半の女性です。脳ドックで偶然、未破裂脳動脈瘤が見つかりました。大きさは5mmほど。場所は中大脳動脈という、脳の比較的浅いところを走る血管。こぶの形は、丸く整っています。血圧はやや高めでしたが、薬で落ち着く範囲。たばこは吸わず、ご家族にくも膜下出血をされた方もいません。

そのため数字の上では、破裂のリスクは高くないグループに入ります。それでもご本人は、「いつ破れるか分からないものを抱えて生きるのが怖い。できれば手術で治してしまいたい」と話されました。

つまり、医学的な数字と、ご本人の気持ちが、別の方向を指している。未破裂脳動脈瘤の判断が難しいのは、まさにこういう時です。検査の数値だけを見れば答えは出そうに見えて、実際にはそう簡単ではありません。

三つの選択肢

未破裂脳動脈瘤が見つかったとき、選択肢は大きく三つです。どれが正しいかは、こぶの条件とその人の事情で変わります。

  • 経過観察:すぐには治療せず、定期的な画像検査で大きさや形の変化を見ていく。血圧管理・禁煙などで破裂リスクを下げながら付き合う。
  • 開頭クリッピング等の手術:頭を開けて、こぶの根元を小さなクリップで挟み、血液が入らないようにする。再発が少ない、確実性の高い方法。
  • 脳血管内治療:足の付け根などの血管から細い管を入れ、こぶの中をコイル塞栓術等で詰める。頭を開けずにすむ、体への負担が小さい方法。

まず押さえておきたいのは、「治療しない」も立派な選択肢だということです。経過観察は、放置とは違います。リスクを見積もったうえで、あえて「今は待つ」を選ぶことです。

未破裂脳動脈瘤の手術と経過観察、利点と欠点

判断のために、破裂する側のリスクと、治療する側のリスクを、同じ土俵に並べてみます。どちらにもリスクがある、という点が大切です。

まず、経過観察から。日本の大規模な調査(UCAS Japan)では、未破裂脳動脈瘤が破裂する確率は全体で年間およそ0.95%と報告されています。大きさによる差は大きく、3〜4mmで年0.36%、5〜6mmで年0.5%ほど。一方で7mmを超えると確率は段階的に上がっていきます。つまり、小さく整ったこぶは、多くの場合あわてて治療しなくてよい、という根拠があります。

ただし、サイズだけでは決まりません。たとえば同じ大きさでも、前交通動脈や後交通動脈、脳の後ろ側(後方循環)にあるこぶは、中大脳動脈のものより破裂率がおよそ2倍高いことが分かっています。また、形がいびつで小さな出っ張り(ブレブ)があるものも、リスクが上がります。

治療する側にも、リスクがある

次に、治療する側。開頭クリッピングやバイパス・トラッピング等の手術は、再発が少ない確実な方法ですが、重い合併症が起きる可能性が1%ほど、手足の麻痺や言葉の障害などの後遺症が1〜2%ほどと報告されています。脳血管内治療は体への負担が小さい一方、治療中の出血や、血のかたまりによる脳梗塞といった合併症が数%程度あり、時間が経って再発することもあります。

そのため、未破裂脳動脈瘤の手術は「破裂を防ぐ利益」が「治療で何かが起こる不利益」を上回るときに、はじめて意味を持ちます。治療そのものにもリスクがある。だからこそ、数字を一度きちんと見比べる必要があるのです。

こうした治療やデバイスの一般的な説明は、日本脳神経外科学会日本脳神経血管内治療学会の一般向けの情報も参考になります。

私が最初に見たもの

診察室で、結果の紙が、その方の手のなかで小さく震えていました。「できれば、手術で治してしまいたい」と口にされたときの、声の固さ。この方を前にして、私が最初に見たのは、画像ではありませんでした。

画像は、少しだけ待ってもらいます。先に、目の前のその人を見る。それから、ようやくフィルムに視線を移します。こぶの形を見て、場所を見て、いちばん最後に、大きさの数字を見る。順番は、いつも同じです。臆病なのだと思います。数字から入ると、その数字に気を取られて、もっと大事なものを見落とす気がして、こわいのです。

形はいびつではないか。破れやすい場所ではないか。そこが穏やかだと確かめて、はじめて、5mmという数字は「あわてなくていい数字」として読めるようになります。そのうえで私は、年0.5%を、この方の毎日の上に置き直してみます。1年で、およそ200人に1人。小さな確率です。けれど、これから20年、30年と続く暮らしに積み上げていくと、その人にとっての重さは変わってくる。数字は、その人の残りの時間の中に置き直して、はじめて意味になる

「小さいから大丈夫ですよ」と先に言ってしまうのは、たやすいことです。でも、それでは、抱えてきた恐怖の行き場が、なくなってしまう。私はまず、その恐怖のほうを引き受けたい。手術の話より先に、この翻訳をすませること。私の仕事は、そこから始まります。

迷いは、残る

では、なぜ、この方には治療を考えたのか。

医学的な条件だけなら、答えは経過観察でした。小さく、整っていて、場所も穏やか。数字は「待っていい」と言っています。カンファレンスでも、そう傾く声のほうが自然でした。

それでも私は、ご本人の不安を、軽いものとして脇に置くことができませんでした。生活を侵すほどの不安は、それ自体が、治療を考える理由になりうる。眠れず、何も手につかないまま何十年も過ごすのなら、それは破裂とは別の形で、その人の人生を、少しずつ削っていくからです。

治すほうが、楽なこともある

ひとつ、隠さずに書いておきます。こぶを治してしまえば、「もし破れたら」という影は、その日から、患者さんからも、私からも、いったん消えます。未破裂脳動脈瘤の手術を選ぶほうが、みんなの夜は、ひとまず穏やかになる。——だからこそ、私はそこで、一度立ち止まります。

不安だから治療する、と決めてよいのは、安全に、体の負担を抑えて治せる見込みがあるときだけです。この方のこぶは、中大脳動脈という、比較的浅い場所にありました。開頭でも血管内治療でも、無理なく道を組み立てられる。だから「不安を理由に治す」ことが、逃げではなく、まっとうな選択になりました。もし同じこぶが、もっと深く危うい場所にあれば、私はもっと慎重に話したはずです。

その日、結論は出しませんでした。考える時間をお渡しして、後日、もう一度、机を挟みました。最終的にこの方は、不安を抱えて生きるより、安全に治せるうちに治す道を選ばれ、私もその判断に納得しています。けれど、別の方になら、経過観察を勧めます。同じ大きさのこぶでも、選ぶ道は、人によって逆になります

最後まで迷うのは、いつも、場所も形も「どちらとも言える」こぶです。数字は、治療を強くは勧めない。それなのに、何かが引っかかる。そういうとき、私は決め手を一つに頼らず、その人がどう生きたいかまで含めて、一緒に考えます。あのときの判断でよかったのか——今でも、ときどき、思い返します。

同じ病気でも、答えは一つではない

未破裂脳動脈瘤が見つかったとき、まず知っておいてほしいことがあります。その日のうちに決めなければならないことは、ほとんどありません。どうか、あわてないでください。

そして、誰にでも当てはまる正解は、ありません。大きさ、場所、形、年齢。何より、あなたが、これからどう生きたいか。それらが組み合わさって、はじめて、あなたの答えになります。迷ったときは、別の医師の考えを聞くセカンドオピニオンも、遠慮のいらない、当たり前の道です。

あなたのこぶの答えは、画像のなかには書かれていません。あなたが、これからどんな毎日を送りたいか——その暮らしのなかに、少しずつ、書かれていくものだと、私は思っています。

よくある質問

脳ドックで未破裂脳動脈瘤が見つかりました。すぐに手術が必要ですか?

多くの場合、急いでその場で決める必要はありません。未破裂脳動脈瘤の手術を急ぐべきかどうかは、こぶの大きさ・場所・形・年齢などから破裂のリスクを見積もって判断します。小さく整ったこぶは経過観察となることが一般的です。迷うときは、別の医師に意見を聞くセカンドオピニオンも当たり前の選択です。ご自身の場合は主治医にご確認ください。

小さい動脈瘤でも破れることはありますか?

あります。5mm未満でも、前交通動脈・後交通動脈・後方循環などの場所にあるものや、形がいびつでブレブのあるものは、破裂しやすいことが知られています。サイズだけでは判断できません。

経過観察を選んだら、何に気をつければよいですか?

血圧の管理、禁煙、お酒を飲みすぎないことが、破裂のリスクを下げるうえで役立つとされています。あわせて、定期的な画像検査で変化を見ていくことが大切です。生活上の注意は人によって異なるため、主治医にご確認ください。

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開頭手術と血管内治療の両方を駆使する脳神経外科医 井上靖章

井上靖章(いのうえ やすあき)

脳神経外科医・医学博士。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医。京都大学医学部卒業。米国メイヨークリニックでの研究研修、ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院フェローを経て、湖東記念病院 脳神経外科部長。開頭手術と脳血管内治療の両方を自分の手で行う「二刀流」の脳神経外科医。治療方針は、開頭手術・脳血管内治療・経過観察のすべてを並べて示すことを原則としている。

プロフィール・実績の詳細 / 「分岐点」の記事一覧 / X(@yasuaki_neuro)

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