分岐点 第19回

脳動脈瘤の再発を繰り返す時の一手| 分岐点

コイルで治したはずの脳動脈瘤が、また再発した——。脳動脈瘤の再発を繰り返すとき、同じ治療を続けるのか、フローダイバーターへ切り替えるのか。私が、繰り返しの連鎖をどう断つかをお伝えします。

2026.10.19 読了の目安 約9分 井上靖章

※一般的な情報です。個別の診断・治療に代わるものではありません。

この記事の目次
  1. また、再発ですか
  2. 詰めても、また開いてしまうこぶ
  3. 繰り返す再発、四つの選択肢
  4. 繰り返す再発、次の一手の利点と欠点
  5. なぜ、開くのか
  6. 入り口を、作り替える
  7. 繰り返しは、断てる
  8. よくある質問

※この記事の患者さんは実在の方ではありません。治療方針がどう決まるかをお伝えするために組み立てた、典型的なケースです。

また、再発ですか

「また、でしょうか」。診察室で、その一言を絞り出すように言われることがあります。コイルで詰めたはずの脳動脈瘤が、また入り口から開いている。しかも、これが初めてではない。二度、三度と、詰めては開き、詰めては開きを繰り返してきた方です。もう何度目だろう、この人はまた入院するのか——画面を見ながら、こちらも小さく息をのみます。

けれど、繰り返しには、繰り返しなりの理由があります。そして、その理由に合う治療を選べば、連鎖を断てることがある。今日は、脳動脈瘤の再発を繰り返すとき、私が同じ治療を続けるか、フローダイバーターのような別の発想へ切り替えるかを、どう考えているのかをお話しします。

詰めても、また開いてしまうこぶ

典型的な経過を、ひとりの方に重ねてみます。

50代の女性です。数年前、頭の中の内頚動脈に未破裂脳動脈瘤が見つかり、コイルでこぶの中を詰めました。ところが一年ほどで、こぶの入り口から、また血が流れ込むようになった。詰め直しました。また開いた。今回で、三度目です。ご本人は、もうすっかり気持ちが折れかけていました。「これを、一生続けるんでしょうか」。

まず、なぜ繰り返すのか、からお話しします。このこぶは、入り口(ネック)が広いタイプでした。日本脳神経血管内治療学会の情報にもあるように、コイル塞栓術等は、こぶの中を詰める治療です。けれど、入り口が広いと、詰めたコイルが時間とともに奥へ押し込まれ、入り口側にすき間ができて、また血が流れ込む。これを、コイルコンパクションと呼びます。詰めが足りなかったのではなく、入り口が広く、そこへ流れがまっすぐ当たる形が、再発を呼んでいるのです。

だから、これは前の治療が間違っていた、という話ではありません。そのときは、コイルが最善の一手だった。ただ、このこぶは、詰めるだけでは開きやすい形をしていた。失敗を繰り返したのではなく、原因そのものに、まだ治療が及んでいなかったのです。

繰り返す再発、四つの選択肢

まず整理します。脳動脈瘤の再発を繰り返すとき、道は大きく四つに分かれます。「また同じコイル」だけではありません。

  • 再コイル:もう一度、こぶの中をコイルで詰め直す。同じ形なら、また開く可能性が残る
  • ステント併用:入り口に金属の筒を渡し、コイルを支えて安定させる。入り口の広さに手を打つ
  • フローダイバーターへの転換:さらに目の細かい網目を母血管に置き、こぶへの流れを減らして、入り口を内側から作り替える
  • 開頭手術(クリッピング・バイパス等):頭を開けて根元を挟む、あるいは血管ごと組み替える

大切なのは、同じ治療を繰り返すことだけが、道ではないということです。何度も再発するなら、詰め方を変えるより、こぶが開く「入り口そのもの」に手を当てる発想へ、切り替えどきかもしれません。

繰り返す再発、次の一手の利点と欠点

四つに、決まった上下はありません。繰り返す再発で見比べるのは、それぞれの負担と、その先でまた再発する可能性です。

まず、再コイル。頭を開けずに、血が戻ってきた部分を詰め直せるのが利点です。ただし、入り口が広い形のままなら、また開く可能性が残ります。同じことを繰り返すと、そのたびに検査と入院が要る。

次に、ステント併用とフローダイバーター。どちらも、こぶの入り口に手を打つ治療です。とくにフローダイバーターは、網目が血流をなだめ、やがて入り口に新しい内側の膜が張って、こぶへの流れをふさぐ。いったん閉じれば、再発しにくいとされています。ただし、固まるまでに時間がかかり、血をさらさらにする薬をしばらく続ける必要がある。そして、こぶの場所や形によっては、これらが向かないこともあります。

そして、開頭手術。カテーテルでは入り口を制しきれないとき、頭を開けて根元を挟む、あるいはバイパスで血管を組み替える道があります。再発を繰り返す難しい形でも、根元を挟んで、こぶへの流れを止められることがあります。ただし、頭を開ける負担があり、すでに入っているコイルの位置も考えなければなりません。こうした治療の一般的な説明は、国立循環器病研究センターの情報も参考になります。

なぜ、開くのか

三度目ともなると、私が見る場所は、初回とは変わってきます。今回どれだけ開いたか、あと何本コイルを足せるか——そこは、もう主役ではありません。三度も同じ入り口が開いた事実を前にして、私が本当に知りたいのは、そもそも、なぜこのこぶは、詰めても詰めても開くのか——その根っこのほうです。

再発を繰り返すこぶを、私はいつも、堤防の同じ場所が、何度も決壊する川に重ねます。土のうを積んでも積んでも、同じ一点から水が漏れる。それは、土のうの積み方が下手だからではない。そこへ流れがまっすぐ当たる地形と、堤防の幅が足りない構造に、根っこの原因があるからです。同じ場所で繰り返すなら、漏れを塞ぐより、堤防そのものを作り替えないと、連鎖は終わらない。このこぶの場合、広い入り口に、内頚動脈の流れがまっすぐ差し込んでいた。詰めても、その流れが、また入り口をこじ開けていたのです。

だから私は、今回の再発の大きさより、この「入り口の広さ」と「流れの当たりかた」を、いちばん重く見ました。足すコイルの本数より、入り口をどう作り替えるか。この方の次の治療は、そこから考えはじめました。

いたちごっこを、どこで降りるか

詰めては開き、詰めては開き。この繰り返しに、こちらが先に音を上げそうになる瞬間が、正直あります。けれど、そこで「もう一度だけコイルを」と流されれば、来年また、同じ画像の前に座ることになりかねない。いたちごっこを、どこで降りるか。それを決めるのは、こちらの根気ではありません。こぶの形が「もう詰め直しでは終わらない」と告げているかどうか、そこです。この方のこぶは、はっきりそう告げていました。だから私は、詰め足す発想を、いったん手放しました。

入り口を、作り替える

いちばんの理由は、この方の「もう繰り返したくない」という願いでした。三度の再発で、この方が失ったのは、こぶの詰まり具合だけではありません。毎年の検査を待つあいだの落ち着かなさ、また入院か、という気の重さ、そのたびに仕事や暮らしを組み直す負担。この方が本当に終わらせたかったのは、こぶそのものより、「終わりの見えない繰り返し」のほうだったのです。その願いに応えるなら、詰め直しで終わらせるわけにはいかなかった。だから私は、入り口を内側から作り替えて、連鎖の根を断ちにいく道を選びました。

ここで、気をつけたことがあります。過去のコイルを、「無駄だった」と切り捨てないことです。これまでのコイル治療は、そのたびに、そのときの正しい手だった。ただ、このこぶは、詰めるだけでは開きやすい形だった。それが、三度の再発を経て、ようやくはっきり見えてきた。切り替えるといっても、過去を否定するのではありません。これまでの繰り返しが教えてくれた原因に、次の一手で応えるのです。そういう切り替えでありたい。

願いは尊重し、手段は形が決める

開頭手術と脳血管内治療は、どちらも私が自分の手で行う治療です。だから、「もう繰り返したくない」という願いに応える道を、その両方から探せます。この方はフローダイバーターが向く形でしたが、もし場所や形が合わなければ、ステントで支える道も、開頭で根元を挟み、血管を組み替える道もある。願いは尊重する。けれど、それに応える手段は、こぶの形が決める。選ぶ物差しは、手軽さでも新しさでもありません。この入り口を本当に作り替えられるのはどれか——そこだけです。それが、繰り返しに疲れた方への、いちばん誠実な応え方だと思うのです。

繰り返しは、断てる

脳動脈瘤の再発を繰り返すと、自分の体だけが、なぜ治らないのか、と感じてしまうかもしれません。繰り返したからといって、あなた自身や前の治療を責める必要はありません。この方の場合、再発を呼んでいたのは、詰めるだけでは開きやすい、こぶの形でした。そして、その入り口に手を当てる治療へ切り替えれば、連鎖は断てることがあります。

もし「また同じ治療で」と言われて、この繰り返しに終わりはないのか、と感じてしまったら——別の医師の目で、こぶの形を見直してもらうセカンドオピニオンという道があります。再コイルが向く方も、入り口を作り替える方が向く方も、開頭が向く方もいる。同じ「再発」でも、断ち方は、その人のこぶの形ごとに変わります。毎年の検査を待つ時間が、また再発かもしれないという不安で埋まってしまう。そのつらさも、どうか、次の治療を選ぶ席で話してください。繰り返しの根っこまで見直す一手に出会えたとき、検査を待つ時間は、いまより少し静かなものになるかもしれません。

よくある質問

脳動脈瘤の再発を繰り返すのは、私の体質のせいですか?

体質というより、こぶの形によることが多いです。入り口(ネック)が広く、そこへ血流がまっすぐ当たる形は、コイルで詰めても入り口が開きやすく、再発を繰り返しやすいとされています。ご自身のこぶの形については主治医にご確認ください。

何度も再発するなら、フローダイバーターに変えれば治りますか?

向く場合には有力な選択肢です。フローダイバーターは入り口を内側から作り替え、いったん閉じれば再発しにくいとされます。ただし、こぶの場所や形によっては向かないこともあり、固まるまでの時間や薬の管理も必要です。切り替えが合うかは、こぶの形しだいです。迷うときはセカンドオピニオンという道もあります。

前のコイル治療は、間違いだったのでしょうか?

再発したという結果だけで、前の治療が間違いだったとは言えません。治療を選んだ当時の条件では、コイル塞栓術等が妥当な選択だったことも少なくありません。ただ、入り口が広いこぶは、詰めるだけでは開きやすい傾向があります。過去を責めるより、原因に合う次の一手を一緒に考えることが大切です。

開頭手術と血管内治療の両方を駆使する脳神経外科医 井上靖章

井上靖章(いのうえ やすあき)

脳神経外科医・医学博士。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医、日本脳卒中学会専門医。京都大学医学部卒業。米国メイヨークリニック留学、ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院フェローを経て、湖東記念病院 脳神経外科部長。開頭手術と脳血管内治療の両方を自分の手で行う「二刀流」の脳神経外科医。治療方針は、開頭手術・脳血管内治療・経過観察のすべてを並べて示すことを原則としている。

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